《やさしいおかあさん だいすき・2》

 ある教育相談員の方の話です。

 その方は、お医者さんから電話をもらいましてね、息子さんのことの 相談だったんですが、殴る蹴るの家庭内暴力でたいへんな状態だというんです。

   実は、何ヵ月か前に、そのお医者さんの知り合いの方から相談を受けていたんですが、その時は「本当にお父さん、お母さんが、立場をかなぐり捨てて、子どものために立ち上がったときに、初めて変われるんです。」という話だけさせてもらったそうです。

 そういういきさつがあったものですから、今回は、直接お母さんから電話をもらいまして、大変だというんです。何が大変かといいますと、中2の子だったんですが

  「お母さん一緒に死んでくれ」と言って手が付けられない状態だというのです。電話口の向こうからは、「どこに電話しとる!」「おまえも一緒に死ね!」といった怒鳴り声が聞こえてくるんです。

 相談員は、そのお母さんに「策や方法ではありません。一緒に死んであげたら?そんなにつらいの、かわいそうね。お母さんと一緒に死のうかって。」と話しますと、「いいえ私は死ぬ気はありません」というんですね。これは『やまびこ』、専門的には、おうむ返しというんですが、まず相手を受け入れる、受容するということなんです。

  そういう話をしているうちに、電話の向こうが静かになったそうです。これはきっと、息子さんが受話器を取ったなと思いまして、お母さんと話しているつもりで話を続けたそうです。

 「きっと息子さんは、一番大好きなお母さんと死にたいと思いまよ。」と。

  すると、「おまえになんでそんなことが分かるんだ。おまえはなんでそんなにやさしいんだ。おまえはいったい何者だ。」と言うんですね。

  「私は、おばあちゃんだ」と言うと「しわはあるのか」という具合なんです。やがて電話を切ったんですが、夜10時半ごろまた電話がありまして、「息子が先生に会いたいといっている」と言うんですね。それですぐに出かけていきまして、距離があったものですから、着いたのは夜中の12時少し前でした。

 異様な空気でした。お父さんは、トレーニングウェアを着て正座をしていまして、息子さんもまたトレーニングウェアで、ベッドの上でうずくまって毛布にくるまって黙っていました。

 相談員は、なにはともあれ、心から生きていてくれて良かったと思いました。それで「待っていてくれてありがとう」と言ったんです。すると、くるまった毛布の中から少しだけ顔をのぞかせて、ニコッと笑ったんです。その後は、異様な雰囲気のまま沈黙が続きました。相談員は目で合図してお父さんに席を外してもらい、その子とお母さんと相談員の3人になりました。

 しばらくすると、その子が「尻がかいい」と言うんですね。私は、「どこがかいいの」と。やまびこです。背中、腕、足と、かゆいというところは全部掻いてあげたそうです。どうもアトピーみたいなんですね。そこでお母さんに「オリーブ油があるといいですね」と言いますと、お医者さんですからすぐにオリーブ油とカット綿とピンセットを持ってきてくれました。

  さっそくお母さんに塗ってもらったんですが、ピンセットでカット綿をはさんで、それにオリーブ油をしみ込ませて塗られるんですね。相談員は『ああ、これだな』と思いました。そこで相談員もオリーブ油をもらって、手のひらにのばして、手で塗ってあげました。お母さんも気づかれたらしく、途中から手にのばして塗りはじめました。

 3時を回った頃でしょうか、「もう、死ぬのやめた」というんです。また「ねむたい」と言うものですから、「お母さん、今日は隣で一緒に寝てあげてください」と言ってその日は終わったそうです。

 次の日は5分おきに電話がかかってくるんです。一方的に話して一方的に切ってしまうんです。「お母もお父も、勉強、金、仕事だといって、話をぜんぜん聞いてくれない」ってね。相談員が代わりになってはいけませんので、何回かの電話のうち1回は出かけていることにして、電話に出る回数を減らしていきました。

 そして、日を見て、お父さん、お母さん、その子の3人で、相談室にきてもらったそうです。開口一番、「レモネード」と言うんです。レモネードを作れということです。相談室には置いてありませんでしたので、すぐ買いにいって作りました。まず受け入れるということなんです。

 その子は盛んに「帰る」と言い、父親にむかっては、「おまえなんか死ね」というんです。ところがお父さんが、ここですばらしい受け答えをしてくださいました。

 「そうか、おまえはお父さんが死んだ方がいいのか。じゃあ死のうか。」と。

 するとその子は、「死んじゃいかん」と言ったんです。

 その後、2時間ほど相談室で遊んで帰っていきました。

 そして、数ヶ月過ぎたところで、お母さんが、「先生のところへ行こうか」と言うと、「先生には会いたいけど、もうぼくは先生に会わなくても大丈夫。ぼくは、心身症だったんだね。ぼくは、人のために働ける人になるために勉強するよ」

と言うまでに回復したそうなんです。

 相手を受容する、認めてあげるということの大切さです。

 

 

 私も、今年関わった子どもが、3人不登校から立ち直りつつあります。

 やはりお母さんが鍵を握っていました。

 お母さんはどうしても、勉強の遅れを気にしてしまうんですね。