がん患者さんの生存期間は、この10年で革新的に延長したと思う。
むろん、癌腫によってそれは差があるが、

うちで多く治療している、大腸癌や婦人科癌などに関しては、
驚くほど延長したと感じる。

ただ、肺がんや乳がんのように
新しい薬がぽんぽん出現するような癌腫ではないのに
なぜ長く生きれるようになったかは、

限りある薬を我々医療者がうまく使えるようになったから、というのも
ひとつの理由だと思う。

癌治療は、比較的根治を求めて行う前半戦、僕らは前方ラインといいますが、
それと対峙して、できる限りがんを横ばい(stable disease:SD)で長く維持する後半戦、僕らは後方ラインといいます、この位置付けをしっかりととらえて、担当者はがん治療を患者さんに提案しなければならないです。


前方ラインは、とにかくしっかりと腫瘍を消滅、減量することが求められるので
手術を含めた強い治療
そして、抗がん剤も、副作用がやや強いものを複数組み合わせて行います。
前方ラインでいかにがんを減量するかは非常に大切ですし、
だからといって、そこだけにとらわれて、抗がん剤の副作用で全身状態が悪化したら
本末転倒です。
そのために、支持薬、つまり吐き気どめなどの、副作用を抑える薬の開発も非常に有効でした。

ですので、癌治療の進歩は、新規薬剤の出現ももちろんですけど、
それを使う我々医療者の経験アップも大きいと思います。

強い治療をぼんぼんやって、PS(全身状態)が悪化すれば、すぐに癌治療全てが継続できなくなる。

だからといって、副作用が少ないとうたって、エビデンスのない癌治療もどきをやっているクリニックは、初期にしっかりと腫瘍制御をしないことになり、がんの顔つきがどんどん悪くなって、取り返しのつかないことになる。

だから、前方ラインは、ちゃんとしたがん拠点病院でされたほうがいい。


一方、後方ラインは、とにかく患者さんと話し合いながら、残された手立てを全てうまく使い切る、これも医療者の経験値が必要になります。

漫然と、保険適応の薬を並べて順番に使うようではだめ。

治療を途中で休むことも必要。それは、全身状態がいい、ことが、癌治療の全てでであって、
PSといいますが、とにかく、すべての臨床試験で、余命に関係するものとしてPSが言われるのも、やっぱり、元気な人は長生きする、元気だからいろんな治療が試せる。

だからこそ、玄米菜食ダイエットなんてするべきではないんですよ。

うちの治療は、後方ラインです。
後方ラインの中の1つであり、
通常の病院で受けれる後方ラインの途中にカテを介入し、その後の残された後方治療をさらに継続しやすくすることも目的のひとつです。

予後規定因子といって、重要な臓器にできた、例えば肝臓や肺などの病気を短期間、ピンポイントで治療することで、元気になり、さらにそこで命も貯金もできて、次の治療につながる。

また、本当は頭を抱えながらしていますが、
確かに、最後の砦、として治療している患者さんもいます。

僕のやっている治療のあとは、世の中には積極的癌治療が一切ない。
だから、僕がギブアップすることは、それは緩和治療に移行すること。
そういう患者さんも何人も抱えてきました。
そして、不思議とそういう患者さんたちと年単位で長いお付き合いを今でもさせてもらっています。

これは、考え方なんですけど、どうしてもカテは局所治療だから、
全部の病気の治療はできない。
そこで、よく言うのは、僕は自分の患者さんで、肺転移が原因で死んでしまった方はほとんど見たことがありません。なかには10cm以上の肺転移や、気管を閉塞するような縦隔リンパ節が致命傷になることもありますが、小さな肺転移が何個、何100個あろうとも、患者さんはほとんど症状を訴えません。
やはりそういう患者さんは、同時に存在する肝転移や播種が命取りになる。

最後の砦として、患者さんの希望は、長生きすること、元気になることです。
だから、治療ターゲットを適切に選択して、バランスよく時に全身治療を交えながら
治療を継続している。だからかもしれません、皆さん、転院されてくる前に言われた余命よりはるかに長生きされるケースが多いのは。


前方ラインはとにかくしっかりとやってください。

後方ラインは、ひとりひとり最良の選択が異なることが多く、
カテのようなイレギュラー(とは自分は思っていませんけど)な治療も交えながら
とにかくながーいお付き合いをがんとしていただけるよう、
馬鹿の一つ覚えのように薬を順番に提案してくるだけの、患者さんをみずにがんしかみない医者だと思ったら、セカンドオピニオンに行かれて他の先生の意見をきくことも大切な権利ですよ。



さて、真面目な話を書いてしまいました。


次回以降のブログのテーマとして、

1)腫瘍内科医が困惑する、がん保険の見直し(アホな俺)

2)Gを笑顔で握りつぶす最強の放射線女性技師(実在)

を考えています。


乞うご期待。


病棟ラウンドしてきます。