がんの遺伝子検査


雨ですねえ

ちょうどSNSで、がん遺伝子検査について投稿があって
いい内容だと思ったので、かいつまんで解説


人間って、自分の知らないことに対して、強い感情を持つ生き物だと思います。
がん治療の現場では、知らない、新しいそうな、名前が略語や壮大な感じのするものに、患者さんは強い期待を持つものです。


ただ、多くのそのような新しい類のものが、期待していたものではなかった、ということは多々経験されるのではないでしょうか。

これは医療者がうそをついてるからではなくて、新しいものに関する情報の理解が不足しているために起こりえます。


まず、遺伝子というフレーズに、これは自分だっておお、って思います。
遺伝子って究極ですからね。
なんか遺伝子に治療したら、どんな病気でも治る気がしませんか?

ただ、遺伝子治療ではなく、現在実施されている遺伝子うんぬんの本質は

遺伝子検査

です。


「簡単に言えば、患者の癌組織から得られる遺伝子(DNAやRNA)の配列を調べ、癌の悪化や進展の原因となっている異常を突き止め、分子標的薬をはじめとした最適な治療を行おうというものです。現在2種類の癌ゲノム検査が厚生労働省から承認されており、保険点数を決める最終段階に入っています。」


という記事を見ました。


そして問題点も書かれていました。


重大なことは、これが検査であること。
遺伝子を調べると、分子標的薬など最近の新しめの抗がん剤、免疫治療が効きやすいかどうかわかることがあります。
これは確実に効く保証ではないことをご理解ください。
ただ、従来の抗がん剤が
なになにがんだから、この抗がん剤
といったように、がんの種類で使い分けられていたのに対し、
遺伝子の種類で抗がん剤を使い分ける時代になりつつあるのは革新的です。
そして、ここからが本題。
これは検査です。
いま保険承認されて使える薬剤が遺伝子検査でヒットしたら、もしかしたら順位の低かった薬を前倒しで使用し有益な結果につながるかもしれません。
ただ保険承認されているものは、現在の一般的な医学のエビデンスによって、いずれかのタイミングで使用することは可能です。遺伝子検査をしたからといって、別になにも変わりません。
変わるとすれば、他のがんで保険承認されている薬が、実は有効かもしれない、ということが判明する可能性、です。
抗がん剤は、がんの種類で使用するものが異なります。
科学的に証明されてきたその過程の中で
なんらかの要因で採択が遅れてしまった、またはされずにいる薬剤もきっとあるでしょう。
エビデンスを作るための過程は大変です。
様々な環境にも左右されます、下手したら、製薬会社のパワーによっても変わってきますよね。銭がかかりますから、試験には。
だから、遺伝子検査によって、今後様々な知見が増えて、新規に他の癌腫に採用されることもあるかもしれません。
ただ、保険で出来るかどうか、はこの科学とは異なります。
保険はお金の問題です。
いかに海外で使用されていたとしても、日本で保険承認されていないことはありえます。

ちょっと回りくどくなってきましたが、

ようは、遺伝子検査で使ったことのない、他の癌腫で承認されている薬剤が有望だとわかっても、それを保険では使えない、そういうことです。

じゃあ、どうすれば投与できるのか?

シンプルなのは、自己負担です

ただ、日本では原則混合診療は認められていません。
保険で支払われる部分と、自費の部分が、共存できないんです。
簡単にいえば、使いたい新規の保険承認されていない抗がん剤を使った場合、
その治療に関係するすべての治療費が全額自己負担になります。
カテで言えば、うちは原則保険承認されたものしか使ってません。
もし1つでも承認外のものを使ったら
併用する他の抗がん剤、血管内手術費用、入院費用、検査費用
全てが自費になります。

恐らく、相当のお金持ちでも難しいのではないでしょうか。
チェックポイント阻害剤を自由診療でやるのも、えぐいくらい銭かかりますし、
問題となっている副作用が出た場合も、普通に考えると副作用に対する医療費も自己負担になりえます。

遺伝子検査でちらっと見える現状

お金が必要な世界


えぐいですね。
でも、遺伝子検査はあくまで検査、それで新規治療が受けれるかどうか、非常にハードルは高いわけです。

また、この記事を読んでいると、保険承認で出来るような対象者は、標準治療をやりつくした患者さんに限定されているようですね。

確かに、他に手がないからこういう検査で活路を見出そうとする考え方は同意です。

ただこの検査、時間がかかるようです。
そして、実際に有望な薬剤が見つかったとしても上記の様々な理由から投与には時間がかかるでしょうし、投与できない可能性も高いです。

最終ラインとしてもうなにも残っていない方で、この過程を待っている余裕はほとんどないのではないでしょうか。


将来的には、がんと診断されたタイミングでこういう検査を導入すれば、有効な治療が行いやすくなって、助かる命も増えて(早期に治療が完遂すれば国が支出するお金も減り)、医学的な知見も蓄積されてさらに科学が進歩しそうです。
でも、今は無理だろうなあ。



新しい選択肢が増えることはよいことです。
ただ、それがどのようなものかを適切に判断するには、患者さんにも勉強が必要な時代です。

うちのがんカテを受けている患者さんたちは、
ある意味、先生に丸投げおまかせタイプはほとんどいません。
医療者と患者さんがちゃんと情報と意見を交わしたあと、患者さんが自分から選択ができるような、そんな関係です(?)
勉強されてますね。
ただ、当然我々医療者ほどには理解できなくて当然です。
我々医療者は、適切な情報をしっかりと患者さんに伝える義務があります。
情報をただ全部伝えることも、処理できませんからね。
適切に吟味して伝えるように、また、まどわすことなく、道を外さないよう、自然と注意を払っています。



さて、外来の合間に書きました。
ちょうど入院されている患者さんから質問を受けたところなので、
回答もかねて。


明日から出張です。
その分、来週のカテは大変なことになりそうですが、
フルマラソンのつもりで火曜と木曜、がんばります。






「吹田徳洲会病院 がんカテーテル治療センター」



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