ICUから病室に戻った時には、身体を自由に動かすことはできず、多くのチューブに繋がれていて、しかも絶食。
鎮静剤のせいか、何をする気力もなく時間だけが過ぎて行きました。何もしていなくても、心の中では、あれこれ色々な考えが浮かんでは消えていきました。ずいぶん昔に禅寺で座禅をしたことがありましたが、ちょうどその時と同じような心の動きでした。考えようとして考えているのではなく、勝手にあれこれと雑念が思い浮かんで来ます。そして不思議なことに気づきました。眼を閉じても眼を開いても映る景色は同じです。今自分が起きているのか寝ているのかが解らない状態でした。
小脳にできた腫瘍の除去手術を受けましたが、担当医は小脳は大脳の高次機能に影響がないので、所謂小脳症状と呼ばれている運動調節の不具合以外は起きないと言われてました。しかし明らかに視覚に異変が感じられ、無いはずのものが見えたり、動くはずのないものが動いたりしているように見えました。眼を閉じても景色が変わらないなんて、他人に言っても信じてもらえそうにありませんが、実際にそうなのです。網膜に映ったものがそのまま見えているのではなく、網膜から届いた信号を脳が解釈した結果が見えているのだということがよく理解できました。神経細胞はヒトの大脳で約160億個、小脳で約690億個と言われていますが、小脳で処理されている情報量の方が大脳で処理される情報量より多いのではないかと思います。身体からもたらされた情報は、大脳が理解可能なように小脳で処理されていると考えると辻褄が合うような気がしました。小脳に手術というダメージを受けた結果、小脳の情報処理系が一時的に混乱しているのだろうと考えていました。