「医学部と理学部のどちらに進むべきか」
一見すると、まったく異なる二つの学部です。
しかし、理系科目が得意な高校生のなかには、医学部と理学部の間で進路に迷う人もいるでしょう。
また、成績のよいお子さんを持つ保護者の方が、
「医学部を勧めたほうがよいのだろうか」
「本人は理学部に興味があるようだが、将来のことを考えると医学部のほうが安心なのではないか」
と悩むこともあると思います。
僕自身は、国立大学の医学部医学科に入学した後、そこを辞めて理学部化学科へ進みました。
両方の学部を経験した僕が、その違いをあえて一言で表すなら、こうなります。
医学部に向いているのは「人間に関心がある人」、理学部に向いているのは「知ることが好きな人」です。
医学部に必要なのは、人間への関心
医師に向いている条件として、多くの人は「頭がよいこと」や「責任感があること」を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらも大切です。
しかし、僕がもっとも根本的な条件だと思うのは、病気だけではなく、その病気を抱えている人間に関心を持てることです。
医師が診るのは、病気そのものだけではありません。
病気を抱えた、一人の人間です。
同じ病名でも、強い不安を感じる人もいれば、比較的楽観的に受け止める人もいます。
病状について詳しく説明してほしい人もいれば、必要最低限だけ聞きたい人もいるでしょう。
治療方針を決める際にも、その人の人生、家族、仕事、価値観などが深く関わってきます。
つまり、医師は毎日、人間と向き合う職業です。
これは、必ずしも「社交的で、話し上手でなければならない」という意味ではありません。
口数が少なくても、患者の話を丁寧に聞き、誠実に向き合える医師はいるでしょう。
一方で、人間そのものへの関心がほとんどなければ、医師の仕事を長く続けていくのはつらいのではないでしょうか。
患者の不安や悩みを聞き、ときには理不尽な言葉も受け止め、人生の重大な局面に立ち会う。
その積み重ねのなかで「この人の役に立ちたい」と思えることが、医師という職業を選ぶうえで大切なのだと思います。
「成績がよいから医学部」でよいのか
医学部受験では、高い学力が求められます。
そのため、学校の成績がよいお子さんに対して、先生や保護者が医学部を勧めることもあるでしょう。
「その成績なら医学部を目指せる」
「せっかく勉強ができるのだから、医学部に行ったほうがよい」
「医師になれば将来も安定している」
こうした考え方にも、もっともな部分はあります。
しかし、医学部に合格できることと、医師に向いていることは同じではありません。
医学部に入学すれば、長期間にわたって医学を学び、臨床実習を経験し、その先には医師としての仕事があります。
学力だけではなく、
「医学という学問に関心があるか」
「人の身体や病気について学び続けたいと思えるか」
「患者と向き合う仕事をしたいか」
という点も、進学前に考えておく必要があります。
僕自身は医学部に合格できましたが、医学という学問にも、医師という職業にも、十分な関心を持てていませんでした。
そのことに気づいたのは、医学部に入った後でした。
理学部に必要なのは、知ることへの欲求
一方、理学部に向いているのは、どのような人でしょうか。
僕は、ひとことで言えば「勉強が好きな人」だと思います。
ただし、ここでいう「勉強が好き」とは、試験でよい点を取ることが好き、という意味ではありません。
知ることや考えること自体を楽しめる人という意味です。
理学部で扱うテーマの多くは、必ずしもすぐに役立つものではありません。
宇宙はどのようにして生まれたのか。
素粒子はどのように振る舞うのか。
物質はなぜ、そのような性質を示すのか。
生命はどのような仕組みで動いているのか。
こうした問いに対して、
「それが何の役に立つの?」
ではなく、
「それを知りたい」
と思える人が、理学部に向いています。
基礎科学の研究は、すでに答えのある問題を解くことではありません。
まだ誰も知らないことについて、自分で問いを立て、調べ、考え、確かめていく営みです。
何か月取り組んでも、期待した結果が出ないこともあります。
それでも文献を読み、考え、実験や計算を続けられるのは、知ることそのものに喜びを感じられるからです。
僕自身、医学部では、自分の好奇心が向かう先を見つけられませんでした。
しかし、理学部で化学を学び始めてからは、「もっと知りたい」と思えるものに出会うことができました。
この違いは、僕のその後の人生を大きく左右しました。
「できること」と「やりたいこと」は違う
医学部に合格できる学力があるからといって、医師に向いているとは限りません。
同じように、数学や理科の成績がよいからといって、基礎科学の研究に向いているとも限りません。
試験で点を取れることと、その学問や職業を何十年も続けられることは、別の問題です。
医学部では、人間への関心が原動力になります。
理学部では、自然や知識への関心が原動力になります。
僕は自分自身の経験から、そのように感じています。
もちろん、現実はそこまで単純に分けられるものではありません。
人間にも自然科学にも、強い関心を持つ人はいます。
よい医師ほど勉強熱心でしょうし、優れた研究者ほど周囲の人との協力を大切にします。
それでも進路に迷ったときには、自分にこう問いかけてみてください。
人の話を聞いている時間と、一人で何かを調べたり考えたりしている時間。自分はどちらに、より強く引きつけられるだろうか。
その答えは、自分の好奇心がどちらを向いているのかを教えてくれるかもしれません。
保護者が先に答えを決めない
保護者の方がお子さんに、安定した職業に就いてほしいと願うのは当然のことだと思います。
医学部を勧めること自体が、悪いわけではありません。
ただし、保護者の方が先に「医学部が最善の進路だ」と決めてしまう前に、本人が何に関心を持っているのかを、じっくり聞いてみてほしいと思います。
高校生の段階で、将来の仕事を完全に理解することは難しいでしょう。
「医師になりたい」と言っていても、医師の仕事内容を具体的には知らないかもしれません。
「理学部で研究したい」と考えていても、研究者になるまでの道のりや、その後の進路までは見えていないかもしれません。
だからこそ、親子で一緒に調べ、話し合うことに意味があります。
「どの大学なら合格できるか」だけでなく、
「その学部で何を学ぶのか」
「卒業後には、どのような仕事があるのか」
「本人は、どのような毎日を送りたいのか」
というところまで考えてみてください。
偏差値の先にある人生を考える
進路は、偏差値や周囲からの評価だけで決めるものではありません。
自分は何を知りたいのか。
誰のために力を使いたいのか。
そして、どのような毎日を送りたいのか。
進路選択とは、そうした自分自身の性質を確かめる作業でもあるのだと思います。
医学部と理学部のどちらが優れている、ということではありません。
本人の関心や性格に合った道を選ぶことが大切です。
医学部と理学部の両方を経験した人間として、この記事が、受験生と保護者の方が進路について話し合うきっかけになればうれしく思います。
僕自身がなぜ医学部医学科を辞め、理学部で化学を学ぶ道を選んだのか。
その経緯と、30年以上たった今も残る後悔については、noteの記事に詳しく書いています。
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※ここからご紹介するnoteの記事は、有料記事です。医学部を辞めるまでの経緯や、その後の進路、現在も残る後悔について詳しく書いています。
