矯正治療における非抜歯について
矯正歯科を専門に開業していると、どうしても避けれない問題として抜歯なのか非抜歯なのかの是非があります。
抜歯か非抜歯かという論争は実は100年以上も前にアメリカの矯正歯科学会でも大きな問題として取り上げられて、それまで非抜歯論が主流でしたが非抜歯治療の結果後戻りをしたケースが実際に存在することで、これら後戻りをしたケースだけを抜歯して再治療を行った結果、後戻りも無く安定したケースになったことを実際にアメリカ矯正歯科学会場でDrツイードが世界で初めて100症例の提示したことで、この論争に終止符を打ちました。
何が何でも非抜歯で治療をするという考え方から、必要であれば抜歯での治療を行うというのが現在のアメリカの主流の考え方となっています。
しかしながらここ最近の日本の矯正歯科界において、なぜだか非抜歯論が流行のような広がりをみせています。なぜ100年以上も前に決着がついていることが、日本では再び再燃しているのか?これには大きな要因が3つあります。
要因-その1は、人種の解剖学的な違い。即ち白人種と黄色人種である日本人の違いです。白人種はいわゆる狩猟民族であり肉類を食しやすい形態で歯冠部が小さく、溝が深く、歯根が長いという大きな特徴があります。これに比べ黄色人種である日本人は農耕民族で、お米等を食しやすい形態で、歯冠部が大きく歯根は短く、臼のような形で溝は浅く、すり潰すのに適した形態をしています。
どちらの人種も原始時代から比較して、火を調理法に利用するようになり食べ物が柔らかくなり、食べやすくなりました。
その結果、それ迄生で食していた時代の顎骨や咀嚼筋群は退化(学術的には進歩的退化と言います)して小さくそして薄くなってきました。これらの変化により、原始時代のままの大きさの歯牙はどうしても退化した顎骨内に並ぶのが困難になってきました。とりわけ元来大きな歯を持つ日本人は白人種以上に並ぶ事が初めから難しい形態をしているということです。
それから解剖学的にもう一つ重要な点は、歯並びは単に並んでいれば良い訳ではなく、綺麗に並んだ上で口元の調和が取れ鼻呼吸でなければ唾液が乾燥しますから、口腔の機能を長く維持することは難しく歯周病や虫歯に罹患して結局歯を失ってしまう事になります。
調和がとれているということは、無意識下で口がぽかんと開かずに閉じている状態を指しますし、横顔が美しい曲線のラインを描くもので、梅干しの皺のような緊張があるのは逆に調和が崩れていることを指します。調和がとれていることは、口腔内の唾液が乾燥しづらく、唾液の持つ免疫的な機能が働きますから、歯周病や虫歯になりづらいと言えます。
こうして解剖学的な比較から言える事は、白人種の方が非常に有利な形態をしている上に、口元も調和に関連しても鼻が高いやオトガイ部の発達が白人種は日本人より優位で最初から口元の調和が取れている人が日本人より遥かに多いというのが現状です。これも白人種には非常に有利な形態と云えます。
要因-その2は、アメリカと日本の許認可制の違い。
アメリカは専門医制度で臨床試験の合格した矯正医でなければ矯正歯科の看板は出す事ができませんが、日本は専門医でなくても歯科医師国家試験にさえ合格していれば全ての専門の看板を上げることができます。逆に言えば専門の研鑽や経験が無くても矯正歯科の看板を掲げる事が出来るというのが今の日本の現状です。
現実には日本にも専門医制度があり、実際に臨床試験を受けて合格している矯正専門医も一般の歯科医も同等に看板を掲げているのが日本の現状ですし、ちなみに矯正専門医として臨床試験を合格している矯正医は日本全国で400名強ですが、矯正歯科の看板を掲げている歯科医院は約40000軒にも上ります。
片やアメリカは国家試験合格後に、実際に専門の臨床を経験して、臨床試験を受けて合格した者だけが専門医であり、その専門の看板を出す事が法律で認められています。即ち国家試験だけ合格しても専門医としての看板は掲げる事はできません。
要因-その3 日本人の国民性
大部分の日本人は生まれ持ったものを自然なものとして受け入れている意識が潜在的にあります。例えば親から貰った体に、傷をつけることに抵抗感を持っているために、入れ墨を入れたり、美容整形による手術などに拒否反応を示す人も多くいます。その延長で抜歯することも傷つけるや不自然と感じる日本人も多くいる事が非抜歯治療を支持する結果に繋がっています。
以上の3つの要因によって既に100年以上も前にアメリカでは決着がついている非抜歯・抜歯論争なのですが、日本では未だに決着がついていないのが実情です。
当然のことですが、日本に於ける矯正治療の技術的格差は臨床試験に合格している矯正専門医とそうでない歯科医とでは天と地ほど技術が違うのですが、そこでなぜ日本では非抜歯が流行のようになっているのかは、まさにこの技術的な格差からも生じているもので、非抜歯治療の方が技術的に簡単、治療期間も短いということがあり、比較的安易に矯正専門医以外の一般歯科医が簡単な講習会等を受講して見よう見まねで治療を行うことに繋がっているのが現状です。
必要があれば抜歯しての治療するのは日本人でも当たり前ですし、むしろアメリカ人以上に解剖学的に不利な日本人は逆に言えば80%以上が抜歯の適応であり、そうしなければ口元も調和を作る事は不可能であり鼻呼吸が難しく口呼吸になってしまうのが現状です。日本人の多くは睡眠中に口をぽかんと開けて口呼吸している人の殆どはこの口元の調和の崩れが原因と言えます。
最後になりますが、わざわざ技術的にも担保された実力を持つ矯正専門医が本当に非抜歯で治るなら、誰も好んで抜歯することはあり得ません。