なぜ歯並びが悪くなるのでしょうか?
本来歯(乳歯であれ永久歯であれ)は、自然に有るべき正しい位置に萌出しようとするのが普通です。すなわち自然と綺麗に並ぼうとする能力を人間は持っているのです。その歯並びは単に綺麗に並んでいるだけではなく、口元の調和が取れて24時間口が閉じ唾液が乾燥しづらいという形態が理想となります。
しかし、現実には歯並びの悪い人が沢山います。これは歯の大きさとその歯の器となる顎(あご)の骨が小さいことが原因で、小さい器の中で無理に大きな歯が収まろうとして無理が生じることから歯並びが悪くなっているのです。
これは専門用語ではディスクレパンシーと云われるものですが、この歯の大きさと、顎の大きさの不調和は、100年200年の単位で変化してきたものではなく、原始時代の人類が火を使い調理を始めた事から、端を発して千年、万年といった長い年月を経て変化してきたものです。
原始時代の人類の祖先は顎の骨も強大で大きく、歯が並ぶ器として十分な大きさがあり、「親知らず」まで綺麗に並ぶ余裕さえありました。しかし、火を調理に使う事で、食生活が変わり食べ物が柔らかくなり、咀嚼するために必要だった強大な顎の骨や噛むために強大な咀嚼する筋肉は不要になり、退化し、小さく薄くなる変化が生じたのです。
咀嚼する筋肉が退化したことは、それまで頭部特に側面の側頭骨を圧迫していたことで、脳の容積を小さくしていましたが、この側頭骨の圧迫が無くなり、頭部は球形に近くなり脳の容積を大きくなり人類の進化へと繋がりました。
ただし、顎と咀嚼筋は小さくなりましたが、歯の大きさは原始時代から変化もなくその大きさを保ったままに至っています。ということは、原始時代の大きな歯を小さな顎の骨の中に綺麗に収まるということに無理が生じてきているということです。ただし、この変化は農耕民族である黄色人と狩猟民族である白人とは、解剖学的な形態がかなり異なります。
白人種は黄色人種に比べ、歯の歯冠部が小さく、溝が深く、歯の根は長いという特徴があります。それに加えて、鼻が高く、オトガイ隆起の発達が顕著で最初から、口元の調和がとれているケースが多いことも大きな特徴と云えます。これは黄色人種である日本人と比べると、ディスクレパンシーの問題は軽度と云えます。その結果、白人種は抜歯が不要なケースが多くなりますが、逆に日本人は抜歯が必要なケースが多くなるのです。
歯の数や大きさは、解剖学的に上下左右の対称性があって、初めて天然の歯で緊密な咬合で噛む事の出来る形態をしています。ですから例えば1本だけといった非対称生の抜歯をすると、全体の噛み合わせが崩れ、不安定な咬合になり、色々な不定愁訴を引き起こす原因となると云われています。
基本的に抜歯するのは上下左右対称性を最優先しますので、上下左右の第一小臼歯4本といったケースが最もポピュラーな抜歯部位となります。
現代人の歯の数は、28本(親知らずはまず咬合に参加出来ないため数に含めないのが基本です)ですが、小さな顎の骨の中で28本の大きな歯が収まることはかなり難しいと云うのが今の現代人特に黄色人種の特徴です。
将来の人類(数千年単位)は現代人の歯の数より4~8本最初から少ないことで、このディスクレパンシーの問題を改善していると云うのが生物学や人類学では定説となっています。
これは歯の数が現代人より左右対称の歯の数が少なければ、自然に小さな顎の骨の中に綺麗に並ぶことが出来るようになることを意味します。しかし、残念ながら現時点においてはこのディスクレパンシーの問題は適応傾向(最初から歯の数が少ない)にあるものの未だに解決レベルではありません。
だからこそ矯正治療が必要であり、特にその際日本人は抜歯する可能性が高いと云えます。
最後に繰り返しになりますが、歯並びは単に綺麗に並んでいるだけではなく、口元との美しい調和がなければ、咀嚼や発音するという機能を長く維持出来る環境にはなりません。
確かに非抜歯では歯並びだけは並べる事は充分可能ですが、現代人において小さな顎の骨の中に、大きな歯を並べるには、口元を突出させるさせることになり、口元の改善はおろか美しい調和を得ることは不可能となります。その上、歯の軸を前方に押し出すことで歯肉にも大きなストレスが加わり、歯肉炎そして歯周病への危険性は非常に高まります。
口の中は絶えず唾液で潤っている状態が健康にとって最適の環境です。そのためには口元の調和がとれていなければ唾液は乾燥しやすく、虫歯や歯周病になる危険率は高まり、ひいては正常な機能(噛む、発音する)を維持する事も不可能となります。
唾液は、虫歯を防ぐ、歯周病を防ぐ、消化を助ける、会話をスムーズにする等々多くの能力を持っていますが、この唾液が乾燥しやすい環境であれば、口の中の健康を維持する事は不可能となり、歯を喪失することになり一生自分の歯で暮らすことは夢のまた夢となります。
患者さんの気持ちとしてなるだけ非抜歯で治療をしたいという気持ちは、痛いほど理解出来ますが、臨床能力を担保された認定矯正歯科専門医であれば非抜歯で治療可能なものであれば、何も抜歯してまで治療を行う事はあり得ません。抜歯しなければ歯並びは無論口元の調和の改善が出来ないものだけを抜歯するのですが、何でもかんでも抜歯するという印象を持つ患者さんが多いような気がします。
残念ながら我々日本人は、非抜歯で治療が出来るケースは少ないというのが事実です。非抜歯で治療された日本人の多くは、口元が治療以前より突出してしまったというケースをよく見ます。またその事を悩まれてセカンドオピニオンとして当院へ相談来院される方も増える傾向に有ります。