春の日差しが遠ざかり、気温以上に、心理的に肌寒い一日だった。
午前中は、今日中にガルシア・マルケスの『ママ・グランデの葬儀』を読了してしまおうと、短編を読む。コロンビアの作家だからコロンビアが舞台なのだろうが、そこがどこであれ、まったくわれわれの想像の外にある世界が描かれており、それゆえに途轍もなくリアルだ。もちろんこのリアルは写実とはちがう。われわれの知識、感性、理性、常識がまったく通用しない自然の生々しさだ。
午後コーヒー豆を買いに出る。太陽は鉛色の空の背後に隠れ、風景は寒々と縮こまっているように見える。小淵沢のセルクルへ行くと、パンの棚は寂しいものだった。食パンは売り切れていたので一本残っていたバタールを買う。奥さんが人が少ないという。白州のケルンでいつものようにガテマラとモカを300gずつくださいというと。モカはありませんとレジのところに貼り出されている紙を見せられる。エチオピアの内乱で豆が入ってこないとある。あゝ、まったく、紛争、騒擾の種は尽きまじだ。
夕食の時間までに最後の短編「ママ・グランデの葬儀」を読み終える。短物の、長い歴史がぎゅっと詰まった複雑怪奇な作品だ。
夕食後は江戸川乱歩原作、三國連太郎、新珠三千代主演の『死の十字路』を観る。昔観た時も傑作だと思ったが、今回改めて大傑作だと思った。