K子が東京へ出かけたのでお留守番。一人になると緊張感がなくなり、いつものようにだらだら余計なことをしながら過ごす。とりあえずiPadを見ている時間が長い。メールをチェックし(ほとんどがDMメールだ)、ニュースを読み(最近テレビのニュースをあまり見なくなった)、ネットサーフィンをする。それからいつもはKindleやiBookなどで読書をするのだが、「富士日記」という面白そうな江戸時代の紀行文をウェブ上で見つけたのでダウンロードして、読みやすい形態にして保存する作業をしていた。詳しく知っているわけではないが、江戸時代は紀行文の宝庫ではないだろうか。旅がしづらい状況はあったとはいえ、徒歩の旅だったし、事前の情報が少なかった分初めて訪れた場所を見る目は新鮮だったにちがいない。作者は賀茂季鷹という歌人にして古典学者で、寛政2年(1790年)の7月から8月にかけて、現在の東京都中央茅場町から府中、八王子、上野原、猿橋、富士吉田を経て、富士登山、河口湖から御坂峠を超えて黒駒、甲府から甲州街道を経て江戸に帰る。自分がよく知っている場所がどのように記述されているか楽しみだ。
午後3時留守番にも飽いたので茅野市の諏訪森林組合までペレットを買いに行くことにした。地元のスーパーでも買えるが1袋(たい)600円(税込み660円)と高く、茅野市までの往復のガソリン代を考えればわざわざ森林組合まで行くメリットはないのだが、森林組合では1袋500円そこそこだったはずだから、少しでも安いものを買いたかったのである。つまり気持ちの問題なのである。一向に安くならないことへの声のない抗議なのである。
いかにも古くむさくるしい森林組合の事務所に入ると、若い女性の事務員がいた。
「ペレットをください」
「何袋(たい)ですか」
「1袋いくらですか」
「570円です」と言われて軽くショックを受けた。これでは茅野までわざわざ買いに来たメリットがないではないか。
「値上がりしたんですね」
「40円上がりました」
「10袋ください」
「5700円です」
まあ、冷静になって考えてみれば、それでも地元のスーパーよりも90円安いわけで、10袋買ったから900円の節約になったわけだ。ガソリン代のこともあるが、ちょっとした気分転換のドライブも楽しめたんだからよしとしよう。
K子は夜11時半ごろの電車で帰ってきた。車に乗ると生あくびばかりしている。家に帰ると、「これ読んでたのよ」と文庫を見せるので見ると、買ったままぼくがまだ読んでいない国枝史郎だ。
「面白かった?」
「うん、面白かった」
「国枝史郎は茅野市出身だよ」
なるほど、こうして今日が終わったわけだ。