誕生
夏の日の夕ぐれのこと。
ワシが郵便物を取りに庭に出たときじゃった。
何気なく庭の栗の木の前を通りかかると・・・
ムムム!
こりゃまさにセミの羽化の真っ最中じゃないかえ。
こりゃ大変じゃ!
それっ! レンズじゃ、カメラじゃ、三脚じゃ!
今日は一日中のんびりと巣ごもりしていたときで、撮影のことなぞ念頭になかったからのう。
大慌てに慌てて、やっと撮った最初の一枚が上の写真じゃ。フィギュアスケートのイナバウアーのようじゃわい。
地面から這い出て幹をヨチヨチ登っているぐらいの時に気がつけばよかったのじゃが、準備に手間取っているうちに、羽化する直前を撮り損ねてしまったわい。
発見が5分ほど遅かった! 残念無念!
イナバウアースタイルが終わると、今度は徐々に抜け殻に馬乗りになって行く。
ここで静止したまま動かなくなったわい。
しばらくはこの状態が続く。
体を乾かしているのか、羽根が伸びるのを待っているのか・・・。
後ろのオレンジ色は、ブラインド越しの室内の灯りじゃ。
おっと。動き出したわい。
今の今まで一心同体だった自分の分身なぞ未練なく見捨てて、のそりのそりと登ってござる。
「おーい、待ってくれ。俺を見捨てて行くつもりかい」
抜け殻が叫んでいるみたいじゃ。
このころになるともう一人前の羽根になっているのう。
やがて暗闇の中へゆっくりゆっくり消えて行ったわい。
あとに残ったのは抜け殻ばかり。
何だかわびしそうじゃのう。
よく見ると、背中の部分に小さな黒いものが見えるのじゃが、これはどうやら蟻らしいのじゃ。
抜け殻に残った養分でも吸いに来たのかのう。
このころには辺りはもう暗闇に包まれていたため、露光時間が長くなって、動き回る蟻はボケてしまっている。
そして翌朝・・・。
改めて栗の木を覗いてみると、抜け殻だけがポツンとひとつ・・・
「もぬけの殻」とはまさしくこのことじゃった😁
撮影日 8月6日
最終画像のみ 7日
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