--Arrivederci!--


帰国の日の朝、オレはいつもより早く目が覚めた。

帰国への名残惜しさではなく、帰国できるかの不安感でだ。


いつもならガタゴトと走る貨物列車で目を覚ますのだがそれよりも早く起きた。


シャワーを浴び、着替え、何度も何度も荷物を確認した。

今日はミスれない。何があっても日本へ帰るのだ。


パスポートと財布をポケットにしまいこみ、カバンを担ぐとホテルの外へと飛び出した。

もう、無駄にいい天気!雨一回も降らなかったなぁ。


旅行の間、何度も通った路地を抜け、おなじみの駅を目指す。


そして、昨日何度も来た駅へたどり着いた。


ほどなくして電車はホームへ滑り込み、これから仕事へ行くのであろうラッシュアワーの人にまみれ

でかいカバンを持ったオレは電車へ乗り込んだ。


空港に近づくにつれ、電車の乗客は徐々に減っていった。

しかし、それとは反比例しオレの不安は増える一方だった。


なんといっても手元にチケットはないのだ。


「どうでもいいや」 そう思い昨日はあきらめた。

だが、もうちょっと食い下がるべきではなかったのか?

昨日の段階でチケットを手にしておくべきだったのではないだろうか?

大体にして、オレのリスニングはあっているのか?

これでもし、航空会社のカウンターにチケットがなかったとしたら・・・


外の陽気とは裏腹に気分は陰気になっていくばかりだ。

今日失敗したならば、いよいよ大使館の扉を叩く事になる。


空港には離陸予定時間の4時間前には到着した。


さあ、チケットの回収だ。不安と戦いながら足早に空港内を抜けてゆく。


これで、もし、チケットが、無いとなったら・・・


オレはこういうピンチには強い人間だと自負していた。

しかし、いざフタをあけてみるとどうだ。ネガティブな方向にしか頭が回らない。

それも大したピンチではない。ただ、「日本に帰れるかどうか?」たったそれだけだ。


さすがに昨日何度もきている空港だ。

迷いもせず、案内表示も見ずに航空会社のカウンターへつくことができた。

ここまでは問題ない。時間にも余裕がある。しかし、余裕を持ちすぎた。


航空会社のカウンターには誰もいない!


これがオレの不安をさらに煽る。

頭の中では早すぎるからだとわかっているのだが、不安な気持ちがぬぐえない。

空港内のどこかのバールでエスプレッソでも・・・

いや、その間にカウンターが開くかもしれない。

そしてまたチケットを取りそこなうなんてなったならば・・・


オレは待つことを選択した。


しばらくすると金髪で長身の男性がやってきて

「カウンターは開いてないのか?」

などと英語で聞いてくる。

オレはただ、カウンターによりかかりながら黙ってうなづいた。

男性はすぐにその場を去り空港内の雑踏へと消えていった。


日本人観光客が大きな荷物を手にワイワイと笑顔でオレの前を通り過ぎる。

うらめしい。昨日のオレはきっとああやって歩いていたのだろう。


待つこと1時間。

カウンターに電気がともり、制服を着た女性がやってきた。

女性はオレの顔見て何かを理解したのか受話器を手に取り内線でやりとりをはじめた。

途中声を荒げ、内線の相手へ何か交渉をしている。


申し訳ない。オレがだらしないばかりに航空会社にまで迷惑をかけてしまった・・・


そして、内線での連絡を追え受話器を叩きつけると、こっちを向いてこう言った。


「May I help you?」


オイ!今の電話のやりとりはなんだったんだよ!

お客さんがいる目の前で業務連絡かよ!!1時間も待ってるオレはなんなんだよ!!!

もうちょっと客をだな・・・ま、いいや、そういう国だもんな。


とにかく昨日の紙を見せ、チケットがここにあるはずだという事を伝える。

すると女性はまた受話器を手に取り内線で何か話し始めた。

そして10分もすると小太りの男性が走ってカウンターに向かってきた。

男性の手には


エアチケットきたー!!!


それはもう、サンタクロースを信じている子供がクリスマスの朝を迎えたように喜んだ!

そしてほっとして体中の力が抜けていくのを感じた。


こうなれば後は簡単だ。

時間はたっぷりあるが空港は昨日のうちに散々観光済みだ。

さっさとチェックインを済まし


早々と搭乗ゲートへ


そして搭乗


行きと同じモスクワ経由


有料で大してうまくもないビールを呑んで一眠りすれば


あ!成田!!!

帰ってきた!!オレは無事に日本に帰ってくる事ができたのだ!

しかし、あれほど恋焦がれた日本に帰ってきたことに大きな感動は無く。

ただ、旅の疲れと寂しさがあるだけだった。


この旅でオレはずっと道に迷い続けた。

それはなんのあても無く旅にでてしまったからも知れない。

いや、目標を定めていても迷っていたかも知れない。

ひょっとしたらこうやってブログを更新している今でも迷っていて

目が覚めればまだイタリアのどこかにいるのかも知れない。


ホテルの外に出るたびに迷って不安で仕方が無かったイタリア旅行。

けれども、どれだけ道に迷おうともオレはもう大丈夫だ。

だって、すべての道はローマに通じているのだから。

--Supermercato--


シャワーを浴び、まずはホテルの電話で日本に電話した。

仕事もあるし、心配してる友人もいることだろう。


「もしもし、ノムラだけど、イタリアでエアチケット無くして帰れなくなってさ・・・」

「あー、ハイハイ。最初っから5泊っていっときゃいいだろ?どうせ、そんなこったろうと思ったよ」

「違うんだって!聞いてくれよ、ちが・・・」

「ハイハイ、わかったよ。じゃね」


心配どころかまったく信じてもらえない。他の友人にも電話だ。


「もしもし、あ、ノムラなんだけど、あの、エアチケット無くして・・・」

「え?何?あーそうガハハハ!ちょっとみんなきいてー、なんかノムラねー」

ダメだ!こいつら呑んでやがる!!!


海外に置いてきぼりにされている友人がいるのになんとも薄情やつらだ!

オレなんか日本に必要の無い人間なんじゃないかと思ってきた。


すっかり寂しい気持ちなってベッドに横たわりテレビをつけた。

言葉がわからないテレビ番組も何日か見てるウチにだいぶ慣れた。

しばらくは何も考えずにテレビを見ていたがどうにもハラがへってしかたがなくなってきた。


考えてみれば今日は空港への往復ばかりでロクなもんを食ってなかったな・・・


ホテルのカーテンを少しあけ外を見る。ちらちらと街の明かりが見える。

よし!何か食べに行こう!このままホテルで腐ってたってしょうがない。

ビールでも呑んでなんかしらハラに詰め込めば惨めな気分も幾分か癒されるだろう。

逆に考えればハラが減ってるから惨めな気分になるんだ。


そう思って夜の街へ繰り出した。


しかし、オレの財布にはほとんどお金が入っていなかった・・・

日本にいる時と変らない貧乏暮らしだが、海外だとそれがすごく不安に感じる。

何を食おうか悩んでる余裕は財布に無い。

日本ならこんな時は吉野家と相場がきまってるんだがな・・・


何か安く食べれるものは無いものか?


コンビニがあればいいのだがローマにコンビニは無い。

あるのはバールばかりだ。


ああ、ハラが減った。歩くのも、もういやだ。


そんな時、目に飛び込んできたのがスーパーマーケットだった。

スーパーなら惣菜もあるだろうし、缶詰くらい売っているだろう。

それになんといっても酒の確保ができるではないか!


さっそく中に入ってみる。広いし、棚が高い。


チーズとか超うまそうだ!

これはこれで中々楽しいではないか。


で、買ってきたのがこれ。


最後の晩餐にはちと寂しい・・・

夕べまでは

  

これで                          これだったのが


これですよ?


テレビを付けワインを開け、チーズや生ハムをつまみながら

こんどこそ最後になるであろうイタリアの夜を惜しんだ。


そして2本目のワインをあける頃にはすっかりいい気分になり、日本やエアチケットの事など忘れていた。

イタリア延泊は空港観光で一日が過ぎた。

明日、いよいよ日本に帰る。

--Ricordi!--


大使館=亡命する人が駆け込むところ

オレが持ってる大使館のイメージってなこんなもんだ。

実際大使館が何をしてるのかまったく知らない。みんな知ってるの?

ここに駆け込むのかぁ


しかし、なぜチケットが無いのだろう?

どこかに落とすとしたらどこだ?


1 まずチケットが無い事に気づいたのは空港に行くときで

2 無いって気づいたからからチケットをホテルに取りに戻って

  ここまではチケットは手元に無いわけだよな


3 で、ホテルでチケットを手にとって空港にまた戻って

  ここまでもチケットが手元にあったわけだ


4 飛行機行っちゃったから再びホテルに戻ってきたらチケット無かった、と


整理するに3~4の間にチケットを無くしてる。

よーく思い出せ・・・出来ることならば大使館の世話にはなりたくない。

どこだ・・・チケット落としそうなとこ・・・

あっ!空港のインフォメーションカウンター!!!


そうだ、引導を渡されたインフォメーションカウンター!

ここでチケットをカバンから出して説明したんだ!!!

カウンターでチケット見せて持って帰ってきた記憶無いぞ!

おそらくはそこに忘れてきたんだ!!!

そうとなれば今一度空港へ!


朝と同じこの駅へ息を切らせながら走ってきた。


朝は「来るな」と願った電車が今は非常に待ち遠しい・・・

早く来い!オレは一刻も早くチケットを手にして安心したいんだ!


しかし、待てど暮らせど電車は来ない・・・

日本のように正確なダイヤで運行されないイタリアの電車

こんなジョークもある


Pazzo suicida si sdraia sui binari della linea ferroviaria Roma-Napoli.
Muore con otto ore di ritardo.
見境がなくなった自殺者がローマ=ナポリ間の鉄道線路に横たわった。 
8時間遅れで死んだ。


8時間も待ってらんねーよ!イタリア人ルーズすぎ!


イライラと待っているとしばらくして電車はやってきた。


そこから電車に揺られる40分。

もう、車窓に流れる景色を見ている余裕はなかった。

とにかく一刻も早く空港についてくれ!チケットさえ確認できれば・・・

それだけを考えて電車に揺られ続けた。


そして40分後

本日3度目の空港

まさか一日に3度も空港へ行く羽目になるとは思ってもみなかったorz


今となっては成田空港よりも詳しくなったイタリアはフィウミチーノ空港を闊歩し

インフォメーションカウンターへ向かう。


幸いにもインフォメーションカウンターには先ほどと同じ女性が座っていた。

女性はオレの顔を見ると指差し笑いながら何かを話はじめた。

けど、何言ってるかわかんねーよ!!!


なんとか聞き取れる部分だけで解釈するに

「あんた、さっきチケット忘れてったでしょ?

今、ここにチケットは無いわ

航空会社のカウンターに預けてあるから、そこに行きなさいよ」

そんな感じの内容だった。多分、そうだったと思う。思いたい。。。


自分のリスニングを信じアエロフロートのカウンターへ向かう。

しかし、本日のフライトが終了しているアエロフロートのカウンターは電気が消え

人の気配はまったく無かった・・・


あ、なんだかもうどうでもいいや

ホントもうどうでもいい


イタリアの脳天気さにあきれ、ホントにどうでもよくなった

とにかくチケットは見つかった。(と、思う)

明日少し早めに航空会社のカウンターに行けばなんとかなんだろ。

ならなきゃいよいよ大使館だ。それもまたいいネタだろ。

考えるのもメンドウになったのでフラフラと空港を後にし、ホテルへと帰った。


せっかくの延泊だったが空港への往復ですっかり日は落ちてしまった。

オレもすっかり肩を落としホテルへ戻ってシャワーを浴びた。


胸元を見るとイタリアンジゴロの証である胸毛は無かったが

乳首から長い毛がチョロチョロと生えていた。


なんだかすごく惨めな気分だった。