エプスタインファイルの公開をめぐって大騒動の米国、トランプ大統領が公開を求める法案に署名したと言うけど、係争中の案件ほか公開は限定的みたいだし、トランプ大統領は自信満々の顔してるし、トランプ大統領の名前は出てこないのかもしれないなあと思う。


その米国では劇場公開されず、イスラエル本国では上映禁止のドキュメンタリー映画、「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」を観てきた。「THE BIBI FILES」。


 今まで自分が知ってるつもりでいたこと、考えていたことが、いかに物事の表面しか見てないものであったか、思い知らされたような気がする。


この作品は、在任中に刑事起訴された初のイスラエル首相である、ベンジャミン・ネタニヤフ現首相の、「汚職捜査の過程で秘密裏に制作チームにリークされた未公開の警察尋問映像」と関係者へのインタビューを中心に、長期政権下でイスラエル国内がいかに分断され、民主主義が危機に晒されたか、その過程を描いたドキュメンタリー映画だ。


ネタニヤフ首相は、1996年以来15年間イスラエルの首相の座にあり、2019年の汚職疑惑により、21年の選挙に敗れ退陣した。詐欺および背任で2件、詐欺・背任・贈収賄で1件、2019年11月に起訴、20年5月開廷し現在も裁判は続いている。


にも関わらず、退陣からわずか1年半後の22年11月の選挙を経て、12月第37代内閣発足、首相として返り咲いた。

この時連立を組んだのが極右政党で、その極右からスモトリッチ氏が財務相、ベングヴィル氏が国家安全保障相に就任。

その後、大きな司法改革を提案(裁判所の弱体化を狙ってるとも批判されてる)、国中で大規模な抗議運動が起きた。

抗議運動は、23年夏には最高潮に達し、数十万人規模の街頭デモが起きたという。そんな混乱の最中、23年10月7日、ハマスによるイスラエル攻撃が起きた。


映画には、ネタニヤフ首相本人の他、妻サラ、長男を始め、何人もの関係者の取り調べ場面の映像が出てくる。

刑事ドラマで見るような取り調べを想像していたんだけど、もっとラフでカジュアルな、取り調べというより関係者に話を聞くだけ、っていう感じ。


その中で、ネタニヤフ首相が、こんなつまらないことで一国の首相を攻撃するのか(すみません、内容は合ってると思いますが言葉は正確な引用ではないと思います。一言一句を覚えてないです)と声を荒げる場面があった。

確かに、葉巻も数百本のシャンパンもシャネルのジュエリーも、つまらないことかもしれない。

彼のいうそんなつまらない些細なものは、彼にとっても妻サラにとっても、彼らのような権力者は贈られるのが当たり前という感覚らしい。

が、映画制作者は、それら些細な贈り物はより重大な汚職への「ゲートウェイドラッグ」だという。


実際に警察が証拠を握っているのはごく一部だけど、彼が首相を辞めればさらに、巨大な利権の絡む汚職の告発が出てくると考えてる人は多いらしい。


この映画は何日か前に観たんだけど、直後も今も印象に残っているのは、ネタニヤフ首相本人の取り調べシーンではなく、妻サラ、長男ヤイルのシーンだ。


取調官が事実関係を質問しても(イエス・ノーで答えられる質問)、私たちを貶めてどうするつもりなのか、世界中で私たちは尊敬され支持されてる等々、早口で激昂して捲し立てる妻サラ。

世界中の極右が自身に対する批判に対して捲し立てそうなこと(内容は忘れました)を、こちらは激昂というより超上から目線で、これ以上ないくらい相手を見下した態度でやっぱり早口で捲し立てる長男ヤイル。

同じ傲慢な態度ではあるんだけど、机を叩いて取り調べ警察官を恫喝するネタニヤフ首相の計算された態度とは違う、素の激昂と傲慢って感じに、言葉が通じない恐ろしさを感じた。


ほぼ18年間首相でいる長期政権を独裁と言えるのかまではわからないんだけど、この映画が描くビビ(ベンジャミン・ネタニヤフ首相の愛称)とサラを見て、30年以上前のことだけどルーマニアのチャウシェスク夫妻の衝撃的な最期を思い出してしまった。仮にネタニヤフ首相が独裁者だとしたところで、チャウシェスク元大統領とは独裁のレベルが全然違うけど。


汚職疑惑で失脚したネタニヤフ首相が返り咲くために手を組まざるを得なかった極右勢力から入閣した2人も、絵に描いたような極右すぎてショックだった。こんな人たちが支えている政権なんだと思うと。

映画の中で、彼らの主張することは、これまで報道などで文章として読んできたことと変わりないんだけど、実際にそれを生身の人間が、一点を見つめて動かない目で話している、その事に衝撃を受けた。言葉はそれを発する人まで見なければ、その意味の本当の重さがわからないのかもしれない。


2人の目を見て感じたのは、まさに狂信者の目。


この人たちが、ブルドーザーのようにヨルダン川西岸の入植を進めているのか。


11月9日の報道によると、ガザの保健当局は、イスラエル・ハマスの戦争でこれまでに6万9000人以上のパレスチナ人が死亡したと発表したという。

停戦合意から1ヶ月、瓦礫の下から収容された遺体、これまで身元が確認されていなかった遺体が確認されたことで、死者数が急増したのだという。


ヨルダン川西岸では今小さなガザがたくさんできてる、と最近読んだ記事に書かれていた。10月だけで、パレスチナ人に死傷者や資産被害をもたらした入植者による攻撃は、260件以上に上るという。

ガザでは停戦下でもイスラエル軍の攻撃による死者が出ている。


刑務所行きがかかった裁判を抱え、政権の座にしがみつかざるを得ない権力者をがんじがらめにする極右と家族。

本来その座につくべき器でないものが権力の座にしがみつく、その代償を払ってるのは、彼を権力者の座につけた者たちではない。なんて理不尽なんだろう。

ネタニヤフ首相はどこで誤ったんだろう。もとより道徳心に欠けていたことの結果なんだろうか。

映画のラスト近く、ネタニヤフ首相の演説にスタンディングオベーションをする米議会の映像も、ガザの戦争と今後のパレスチナのことを思うと、絶望的に怖くなるシーンだった。