久しぶりの再会と対面に心の
準備をある程度はてたとは言え
少しだけ何を言われるか怖くて
つい身構えてしまう。
久しぶりに顔を合わせた彼らは
二人とも変わってない。
滋さんは少しだけ髪が伸びて
あの頃よりもグッと大人っぽく
女性らしく変貌している。
「ねえ類くん!婚約したって誰と?」
「類、お前、婚約したとか親父
言ってたけど相手って、誰だよ?」
二人ともほぼ同時に同じような
質問をぶつけてきた。
「あぁ、誰だと思う?」
すぐに答えるつもりはないらしい。
類は分からないように繋いでる
手に力を込めてくる。
そして二人の前でも自然に肩を
引き寄せ腰に手を当てられた。
「ねえ、つくし、3年も周りに黙って
どこに行ってたの?」
「……海外出張」
「「えっ?」」
「マジでか?俺らてっきり失恋の
ショックで失踪したのかと思ってた」
心底驚いたような表情をする美作さん。
当たらずといえども遠からずってとこ、
「……そう思われても仕方ないかなぁ?」
思わず笑ってしまう。
実際そんな感じだったしタイミング
良すぎだったし…ね。
わたし、笑ってる。
あのときのこと思い出しても
もう胸が痛まない。
「何笑ってんだよ!俺ら一応心配は
ちゃんとしてたんだぞ」
「……一応心配ってなによ?」
「嘘つき、面白がってるくせに」
その言い草がおかしくて
つい言い返してしまう
「ウチの親のせいで色々あったんだよ」
「なんで牧野の色々が類の親と
関係あるんだよ?」
「だって見合いの黒幕はうちの母親だし
父親公認たし、つくしの親も知ってる」
類は深い溜め息を吐いた。
「とっくに結納は済ませたし
もう家で暮らしてる
公の場に彼女も一緒に出るのが
初めてなだけ」
「類の母ちゃんって……牧野と
面識あったか?」
「あるのよ、それがさ……類のお母様は
昔も今もわたしの上司」
マジか?という表情でわたしと
類を交互に見る美作さん。
「帰国してすぐしつこくお見合い
勧められるから断るつもりで
会いに行ったら相手が類だったの」
「すごい偶然だな」
うんと頷くわたし。
「俺も、母さんには参ったよ
離れて暮らしてるのに全部筒抜けでさ
でもあの日行かなかったら後悔してた」
わたしたちは見詰め合って笑うと
手を繋ぎ直した。
「あのさ、司のことはもういいの?」
黙ってた滋さんが急にあいつの
名前を口にした。
「もういいも何も司のことは
もう終わったことだから」
滋さんは今でもアイツのこと
すきなのかな?
今にも泣き出しそうな表情を見て
胸が締め付けられる。
それでも彼女の為にも訣別した
想いをちゃんと伝えなければ
いけないと思った。
「司ことは今でも好きだよ
正直一方的に約束破られて
恨んでる時期もあった。
それはわたしが何もしないで
ただ待ってただけの受身の
恋だったからだと今は思うんだ
初めはね、元婚約者の親友と
付き合うなんてって抵抗あったよ?
それでもそんな後ろ向きなわたしに
類は諦めないって言ってくれたの。
今はね、幸せにしてもらうのを
待つんじゃなくて一緒に居て
幸せだと思える人にめぐり合えた
って思ってる……その唯一の人は
今はその人こそが類だと思ってる」
わたしが言ったあと類が口を開く。
「それもあるけど……俺たちを
見合いさせた理由はもうひとつある」
なんなの?と滋さんは類を見る。
「見合いの話進めたのはつくしが
母さんの部下で俺がその息子だから。
所謂親の権力って奴ね
うちの親はそれを行使して
俺とつくしを結びつけた
それと最終的な理由は司が奥さんと
離婚したからだよ。
あいつの身勝手でつくしを
振り回すのは許せないからって
いうのが理由のひとつ」
あーあ、いっちゃったよ。
こんな話本人が知ったら
どう反応するか。
「……わたしも司がつくしにしたことは
友達として、女として許せない……」
滋さんは優しい表情になって私を見た。
「でも今のつくしはちゃんと類くんの
隣りで笑ってるよね、ちゃんと幸せに
満ちてて良かった!つくしには友達として
何があっても幸せになって欲しいから!」
滋さんはわたしの手を握って
そういったあとぎゅっと私を
抱きしめてくれた。
ありがとう。
やっと緊張が解けて堪えてた
涙が頬に零れ落ちる。
「ちょっとつくしを泣かせないでよ」
わたしを背中に庇うようにして
前に立ち滋さんを軽く睨む類。
だから話に夢中になってて背後からの
人影の接近に誰も気付かなかった。
「よう」
彼らと談笑していると背後から
身に覚えのある別の人の気配がして
ガバッと振り向いた。
みんな噂の人物の登場にぴたりと
話をやめて全員黙り込む。
そんな状態の中わたしは
司をそっと盗み見た。
3年ぶりの司の顔。
再会したらもっと激しい怒りの
感情が沸くかと思ってた。
でも、何も感じなかった。
無感動。
ただ、懐かしいなって思うくらい。
わたしはしばらく彼を見つめたあと
そっと視線を逸らし類の背後に
逃げるように隠れた。
沈黙を破ったのは司の方が先だった。
「どういうことだよ」
低い声で唸るように類に
向かって訊ねる。
「あぁ話……聞いてたの?」
感情を押し殺す司とその質問に
淡々と答える類。
「きっかけは親だけど俺たち
真面目に付き合ってるから。
例え司を敵に回しても……
お前が相手でも……俺の婚約者を
傷つけたら許さないよ?」
はっきり、きっぱりといってくれた類。
でも……久しぶりに顔を会わせた
2人の雰囲気は最低最悪だと思った。
でもわたしはその現実から目を
逸らさなかった。
「お前と類が婚約者……だと?」
どういうことだ?と司はわたしを睨む。
「……事実だけど、何か問題でも?」
先にあたしを裏切ったのは
そっちじゃん!
いまさら干渉しないで欲しいんだけど?
次々と込み上げてくる怒りの感情。
強い気持ちで睨みつける。
アンタには分かる?
1度でも裏切られた女の気持ち
もう二度と道明寺には
関わりたくないよ!
あんな思いをするのはもう
たくさんだし!
思い出してしまうとあのときの
怒りと悲しみがどんどん
溢れ出して来る。
司のことは嫌いになれないけど……
恋愛感情があるかって聞かれたら
もう一欠片もない。
確実に前に進んでる。
過去の思いを思い出に変えられている。
司と付き合っていた頃は
こんなにハッキリとは自分の
思っていることをいえなかった。
心なしか項垂れているように見える司。
チクリと胸の奥が痛む。
そんな道明寺を諌めたのは
美作さんだった。
「……司、もう諦めろ」
「っ!なんだと?」
唇を噛み締めながら美作さんを
睨みつける司。
「もう3年も経っちまったんだ
そんなになってまで求める気持ちが
お前にあったなら牧野の気持ちが
こんなにハッキリ分かってる以上
諦めるって選択もあると思うけど?」
美作さんの言葉はかなり司には
効いたようだ。
「……分かってるよ、もう手遅れな
ことくらいは。姉ちゃんにも
釘刺された。お前の幸せを願うなら
もう手を出すなって……
お前の手を自分から話した俺に
今さらお前を自分の都合で
振り回すんじゃないわよって……」
司の苦悶の表情に胸が締め付けられる。
政略結婚させられてもずっとお前のこと
忘れられなかった」
司。
辛そうな表情にわたしの心が揺れる。
変わらない情熱的な眼差しに
射竦められる。
わたしは敢えて司から視線を外して言う。
「アンタの気持ちはわかった
それでもやり直すことは出来ないよ。
わたしは類と結婚して生きてくって
もうちゃんと決めたの」
辛そうな司を見てられずに視線を
逸らしてしまう。
「前に進みたいの、お願い」
顔を見たらもっと罵ってしまう
だろうと思ってた。
意外なほどに落ち着いていた。
司が顔を上げる。
「……わかった。おまえこそ
俺の親友不幸にしやがったら
ただじゃ済まねーかんな!」
深く沈んだ様子の司の表情が
少し穏やかに変わった。
大きな手の平がぐしゃっと
わたしの頭をなぜる。
懐かしい温もりと大好きだった。
司の屈託のない笑顔を見て涙腺が緩む。
この手で撫でられるのが大好きだった
「……泣き虫」
司に頭を撫でられたとき
込み上げてきた熱い物は
涙となって頬に零れ落ちて行った。
ありがとう、司。
バイバイ。
パーティはしばらくして終わった。
滋さん達とは落ち着いたら
またみんなでゆっくりと会おうと
約束して別れた。
でもみんなと別れてから類の様子が
突如として変貌した。
どこか強引というか性急というか。
強引なキス。
ああ、そうか目の前で司との
修羅場?を見せたんだった。
類の逆立った気持ちを鎮めるために
執拗なキスに応えた。
「ごめんね、もう他は見ないって
約束するから……わたしには
類だけだよ
類が小さな子供みたいに見えて
胸が締め付けられる。
ご機嫌を取るのはめんどくさいと思いつつ
わたしは類の機嫌を直すのに
懸命に奔走した夜だった。