久しぶりに地元に甲斐バンドがやってくる。それもツアー初日らしい。いったいどんなライヴになるのだろう?そんなことを考えていた矢先、当日のセットリストが、6月に発売されるライヴアルバム「サーカス&サーカス2019」の曲順通りとなることが分かった。何にしても恐ろしい。ライヴ前にセットリストが分かってしまったら、楽しみが半減するではないか!ということで、この新しいライヴアルバムは、ライヴ当日の物販で購入することにした。

そこからは情報をなるべく遮断して、当日を迎えることになるのだが、何を演られてもいいように、予習としてデビューアルバムから順に聴いていく。フォークロックの世界からロックへ、そして洗練されたAORへと変化するバンドの探究心に改めてその偉大さを痛感させられた。

ライヴ当日の午前中は、「野獣」演って欲しいなぁ、などと呑気なことを考え、シングル盤を聴いていた。(あとで、バカなことを考えていたものだと理解することになる)


さて、会場は広島のライブハウス、クラブクワトロ。収容人員は800人でオールスタンディング。何とソールドアウトの盛況を見せていた。

クラブクワトロは広島市の中心部、PARCOの最上階に設けられている。よって800人が並ぶことのできるスペースなどなく、記載番号順に階段に並ぶという、ここでもオールスタンディングを余儀なくされた人も多かった。

さて、中に入ると、一目散に会場の後方へと走る。多くの人が前方へと殺到する中、最後列の中央をゲット。後ろには甲斐よしひろ用のスポットライトが鎮座する「サウンドマニアにとっての特等席」に入ることができた。その後も次々に人波が押し寄せる。最終的にはすし詰めの状態でライヴの開始を待つ。

SE前から気の早い客が「甲斐〜!!」と叫びながら手拍子を始める。それにつられて手拍子が沸き起こる。定時を迎えるが甲斐は出てこない。その昔はこの状態で20分以上は出てこないのが定番だった。

SEが大きくなり、手拍子が俄然盛り上がってくる。ステージ後方からスモークが前列へと流れてくる。ステージもいい具合に仕上がってきた頃、メンバー登場。想像を絶する大歓声が巻き起こる。

一郎のギターが鳴り響き「きんぽうげ」が始まった。いつものツインギターではなく、1本のギターで勝負する。さらにドラムスは松藤!このタイム感は松藤しか出せない!

大歓声の中、甲斐よしひろがスキニージーンズにサングラスで登場。会場は大爆発である!それにしても昔から、甲斐バンドのライヴでは客がよく歌う。この日も甲斐が煽れば煽るほどに歌声が大きくなっていく。

大歓声鳴り止まぬ中、2曲目は「ジャンキーズ・ロックンロール」この曲に関しては、甲斐よしひろが様々な崩した歌い方を披露しているが、この日は、ほぼオリジナル通りに歌っていたのが印象的だった。

3曲めは何と「吟遊詩人の唄」だった!

ここで始めて気づいたのだが、そういえばツアータイトルが「サーカス&サーカス」だった。そうかそうか、そういうことか。我ながら気づくのが遅い。

客が大声で歌う。

「そうさ、おいらは〜🎶」

そう、ライブアルバム「サーカス&サーカス」の再現である。HERO以降にファンとなった我々のような人間にとって、あのライブアルバムは憧れでもあった。バンドと観客の距離が近く、こんな時代もあったのか?と思いを馳せたことを思い出す。それに何といってもギターが大森信和しかいない。きんぽうげだって、ギター1本で演っていたのだ。

4曲目。「東京の一夜」
この曲はどうしてもBIG GIGを彷彿とさせる。BIG GIGに参戦できなかったという思いも重なり、ちょっぴり切なくなった。

5曲目で何と「港からやってきた女」
この曲をギター1本で演るとは…またそのサウンドの素晴らしいこと。一郎に大森が乗り移ったかのような演奏に思わず震えがくる。

6曲目は「裏切りの街角」
かつての大ヒット曲。この曲は当時シングル盤を入手するのが難しかったのでよく覚えている。それにしても今夜の客はよく歌う。

7曲目でサプライズ。周りの観客も思わず声を上げた「シネマ・クラブ」である。ピアノのイントロに悲鳴がこだまする。この辺りから落ち着いてサウンドチェック。ライブハウスだと轟音のイメージが付きまとうのだが、この日の音は良い意味で控えめで、聴きやすい。分離も良く、素晴らしいサウンドである。特に甲斐が歌い上げるこの曲では音の良さが際立った。

8曲目。甲斐による「テレフォン・ノイローゼ」
アコギ1本で演奏されるこの曲の凄まじさはライヴでさらに強調される。当然会場は大合唱で、甲斐より大きな声で応えようとする。

9曲目。松藤がウクレレを持って登場。何を演るのかと思えば、これは間違いなく「ビューティフル・エネルギー」である。牧歌的な雰囲気の中、甲斐と松藤で歌い上げるこの曲。私は甲斐バンドの中でこの曲が1番好きだ。

10曲目は「安奈」
今夜の甲斐は絶好調。情感溢れる声に圧倒される。この曲では客の声も控えめに、会場全体に暖かい空気が流れる。

11曲目のイントロに会場に絶叫が響き渡る。「悪いうわさ」だ。このギターオリエンテッドな曲は、大のお気に入り。それにしてもこの流れは…

そう、ライブアルバム「サーカス&サーカス」の再現だとすれば、当然あの曲も付いてくる。何度も聴いた曲終わりの転調からの「ダニーボーイに耳をふさいで」全くもって素晴らしい!

周囲の客は終始歌っているが、感心するのは、歌詞を間違えない事だ。どんな古い曲が来てもOK。本物のフリークが集まっている証拠だろう。

12曲目は「氷のくちびる」
ライヴが終わりに近づいたことを知らせてくれる定番曲だ。甲斐のギター(今夜は甲斐のエレキギターもよく聴こえていた)と一郎のギターが交錯。途中の決めポーズもバッチリ決まる。昔はドラムの向こうで松藤がリコーダーを吹いていたものだが、今夜はどうか?残念ながら照明が暗く確認できなかった。

13曲目「ポップコーンをほおばって」
松藤の裏から入るカウントが懐かしい。イントロで照明が炸裂する。ステージ側から客席側をフラッシュする照明はこの曲の定番だ。サビでは拳を突き上げる観客。それに合わせてフラッシュが光る。この曲のハイライトは照明と曲との連動にある。今夜の照明も最高だ。

14曲目は「翼あるもの」
ということは…これで本編終了だろう。一郎がピョンピョン飛び跳ねて観客を煽る。会場は騒然としている。余りの観客の歌声に、甲斐は途中で歌うのをやめ、客に歌わせる。この曲のハイライトは後半にギターリフが炸裂し、スピードアップしていく部分だ。かつては、大森信和がドラムセットから飛び降り、モニタースピーカーの横に滑り込むのが定番だったが、今回はそれを一郎が演ってくれた。流石に狭くて滑り込めなかったが、甲斐が一郎に前に出るよう促していたのを、見逃すわけがない。気づけば、横の客は涙を流しながら歌っていた。

最高の盛り上がりの中、本編が終了。アンコールの声が響く。落ち着いて見渡すと、右前方にミラーボール発見!「100万$ナイト」が来るのか?妄想が膨らむ。

あまり待たせることなく、バンドが再登場。さあ、という時にバンドの息が合わなかったのかやり直し。一郎が爆笑しながら「ごめんなさい言うなー!」と叫ぶ。会場も大爆笑。和やかな雰囲気の中、アンコール1曲目はHERO。リラックスして歌う甲斐の笑顔が弾ける!

そしてメンバー紹介。
「あれ?メンバーこれだけ?」とおどけてみせる甲斐。

アンコール最後の曲は「100万$ナイト」と思いきや「漂泊者」だった!印象的なギターリフが鳴り響き、会場は再爆発!ここでも大合唱が巻き起こり、甲斐は上機嫌で熱唱する。テンション最高潮の中、アンコールが終了。メンバーが楽器を置こうとする中、甲斐が何やらメンバーに指示を出し、そのまま次の曲へ。一度引っ込むのもためらうくらいに、テンションが上がっていたということか。

「きっと明日からはダブルアンコール、あると思うよー」

甲斐は屈託無く笑う。

曲は、「最後の夜汽車」
心揺さぶる歌声に、それまでが嘘のように曲に聴き入る客たち。曲が終わると、会場からは「ありがとう!」の声が聞こえた。

そして最後の最後は…

マイクが前方にたくさん並んだから一瞬「破れたハート」かなとも思ったが、「バス通り」だった。懐かしい曲に、最後はアットホームな雰囲気で会場も一体となって歌い、この夜のライヴは終了した。実に美しいフィナーレだった。