イベントは最悪な形で終わりました。




 「…………」

 あれ……? お、おかしいな。大学の進学先を聞いた辺りから竜ケ崎さん、なんだか元気がない気がする。
 もしかしたら俺、なにか……気に障ることとか言っちゃったかな。

 心なしか竜ケ崎さんの表情は暗い霧が立ち込めている様にも見えた。

 「ごめん。竜ケ崎さんやっぱり今のは……」

 「もう決まってるの」

 ふと、竜ケ崎さんを見ると、いつもの可愛い顔に戻っていた。
 次には天使のような温かい笑顔を俺なんかのためにこぼしてくれた。
 
 あれ……。意外と大丈夫な感じ? な、なんか余計な心配しちゃったかも。
 そう思い俺はすっと胸を撫で下ろした。

 「へ、へぇー。この時期でもう進路が決まってるなんてやっぱり竜ケ崎さんってばすごいね!」

 ひ、ひとまずこんな返事で大丈夫かなっ。……うーん。もっとなんかこう他にいい台詞や言い回しとか言えなかったのか、俺?

 「ありがとう……」

 竜ケ崎さんは一言そういった。
 
 「う、うん」

 「…………」

 ーー沈黙が訪れる。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー開いた窓の隙間から複数のカラスの鳴き声が聞こえてきた。

 違う! 違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う。

 机を運んでる時、俺がずっと考えてたのはこんなんじゃなかったはず! もっとこう、俺と竜ケ崎さんが楽しく会話して笑いあってるみたいな? シーンのはずなのに! どうしてこんな魔境の奥地みたいな雰囲気になってんの!?
 
 俺は自分のコミュ能力の低さに痛みを忘れるほど奥歯を噛んだ。
 ーーイテっ。あ、口の中切れたかも。

 「てことは高宮君のほうも決まってるの?」
 
 口の中に広がる鉄の味を嫌々に味わっていると今度は竜ケ崎さんのほうから会話のボールを投げてくれた。

 「いやいやそんなまさか。俺なんて大学のだの字もないって。ハハハ。……これから先、否応にも決めなきゃいけないけどね」

 「そうなんだ……がんばってね」

 竜ケ崎さんは女神にも引けを取らない返事をしてくれた。
 さ、さすがはマイエンジェル。たった一言で俺の心をここまで癒すとは。

 見ると竜ケ崎さんの口元はかすかだが綻んでいた。でも気のせいか、目は笑ってない気がする。

 「ちなみに竜ケ崎さんはどこの大学に行く予定なの?」

 「そ、それは……」

 竜ケ崎さんは再び上げていた顔を下に俯むかせ言いすくんでしまった。
 や、やっぱり聞かなかったほうが良かったかも。
 
 う、うーむ。さすがにこのままだと気まずい。何かほかの話題に変えないと! ーーくそッ、思い返せば机運びの最中ずっと考えてたのって俺と竜ケ崎さんが楽しく笑いあってるシーンしかないじゃん! 肝心の会話の内容とか何も考えてなかった! 一体何してんだよ数十分前の俺! 何か! 何か話題を変えねばッ!
 
 俺は話題を変えようと痛みが残る口を無理やり開き、
 

 「大好きです!」

 「え」


 ……………………………………………え?


 お、俺……。何言ってんのぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!?!?!?!?!?!?!?

 
 「あのそれってどういう……」

 や、やらかした……! 話題を変えるつもりがつい最終段階の告白にまで飛躍しちまったッ! あぁ……。ほら見ろ、竜ケ崎さんの目を。道路に落ちてるうんこを見る目で俺の顔を見てる。……俺の顔そんなに汚いのかな。……終わったな。俺の人生。そして俺の高校生活。約二年間の片恋がこんな形で終わるなんて。
 
 ーーというより竜ケ崎さん! そんな痛々しい目で俺を見ないで……! ホントお願いしますッ。色んな意味で辛いです!

 「高宮君……」

 「は、はい」

 竜ケ崎さんが歩を進めゆっくりと近づいてきた。
 はぁ。とうとうこんな形で振られるのかぁ……。まぁ、俺にしては頑張ったほうだと思うよ。うん。

 「私、実は……」

 「ちょっと待ったぁあああああ!」

 突然地鳴りのような怒号が鳴り響き教室のドアが力強く開けられた。

 「な、何だ!? 地震か!?」 

 俺は近くにあった机の下に咄嗟に潜り込んだ。
 
 「あんた何やってんの?」

 どうやら地震じゃなかったらしい。俺はほっと一安心し机の下から這い出る。
 幸い地震じゃなかったが仮に地震とするなら間違いなく震源はコイツだろう。そう、俺と同じアパートに住んでいて何かと俺の邪魔をしてくるヤツ。赤城あかねだ。

 「赤城さん、そんなに大声出してどうしたの?」

 「赤城さん、そんなに大声出してどうしたの? じゃないわよぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!」

 うぜー。なんだコイツ。竜ケ崎さんの台詞を一言一句間違えずに真似したのはすごいが、返ってよりうざさを引き立たせているからな?

 いつの間にか教室には俺と竜ケ崎さん、そしてあかねの三人がいる状況になっていた。

 「ーーで、なんでお前がここにいんだよ」

 「な、なんでって言われても……。そ、そう! 教科書を忘れたから取りに来たのよ!」

 あかねは腰に手を当て少しばかりの、否、なかなかにボリュームのある豊満な胸を強調した。
 なぜ教科書を忘れに取りに来たことを自信満々に言っているのか。少なくとも俺にはわからない。
 いうまでもなくさっきまでの、俺と竜ケ崎さんの二人きりの雰囲気は台無しだ。

  まぁあかねが来る前からほぼ台無しだったけど。

 「いや、お前いつも置き勉してんだろ」

 「ギクッ! な、なんでそれを知ってるの……?」

 なんでって言われてもさっき運んだ机の中でお前の机がぶっちぎりで重かったからだよ。
 頭の中であかねに問い詰めていると、

 「あ、あの赤城さん……」

 「竜ケ崎さんなに!」

 いや怖えよ。明らかに竜ケ崎さんお前に怯えてるから。頼む、この通りだから一回教室から出てくれ。
 見ると竜ケ崎さんはさきほどから右手で顔を覆っていた。よほどあかねのことが怖いのか。それとも俺に対する嫌悪感からかーーすると突然竜ケ崎さんは依然右手で顔を覆ったまま、足元にあった鞄を左手でバッと掴み、瞬く間に教室から走り去っていった。その際、教室に並べられた机の角に何度も体が当たった。
 
 嵐が過ぎ去ったあとのようにすっかり静まり返った教室。
 もはやこの教室には俺とあかねの二人しか残っていない。

 「…………」
 
 「…………」

  再び沈黙が訪れる。





 ーーこの流れさっきも味わった気がする。
 が、俺は小さく息を吸い「はぁー」と口か大きく吐き出した。

 「お前マジ何してくれてんの!?」

 「何って助けたのよ! 真から竜ケ崎さんを!」

 と犯人は意味不明な供述をしており。