二人っきりのカラオケ
学校の帰り道、俺はあかねに誘われ、ほぼ強制的に二人でカラオケに行くことになった。
なぜだろう。女子高生と二人きりでカラオケに行けるというのにこんなにも胸が躍らないのは。というより全く嬉しくない。というより早くおうちに帰りたい。
そう考えているといつの間にか学校から一番近いカラオケ店の前に着いていた。
このカラオケ店は俺の住んでいるみなも町の中で三つしかない内の一つのカラオケ店だ。この際だから言わせてもらうがみなも町はドがつくほどじゃないが田舎の方だと思う。
このカラオケ店だってそうだ。見たところ看板が明らかに錆ついている。少し力を加えてやればすぐにネジが外れて落っこちてきそうだもん。いつか絶対ケガ人出るって。一高校生の俺が口出しするのもあれだが、もう少し外観とかに気を配ってほしい。
「さあ今日は歌うわよ! 真が歌う分もちゃんとあるからね?」
「へいへい」
二人しかいないのに何をそんなに順番あげるから感謝しなさい、みたいなオーラが出るのか。
そんな俺の気持ちも知らず、あかねはいつの間にか店内に入っていてカウンターで受付をしていた。
その後、あかねは慣れた風で受付を済ませ戻ってきた。
たぶん日ごろから友達とこういうところに来ているのかもしれない。友達の少ない俺にとってはカラオケの良さなんてちっともわからないけど。
俺たちが指定された部屋は五番の部屋だった。
受付のカウンターからみて一番奥の部屋。もちろんトイレやドリンクコーナーなどのセルフサービスは受付のロビーにある。つまり単純にみて俺たちの部屋が一番不便ということになる。
「ついてないな、色々と」
「なにかいった?」
「何も」
さっきの放課後のこともあってか俺は自分でも気付かないうちに少しナーバスになってるのかもしれない。
あかねは、俺に部屋の伝票と二人分のジュースを渡すと「お手洗いにくから、先行ってて」とだけ言い残し去っていった。別に待つ必要もないだろうと思い俺もそうした。
扉を開けると部屋は明かりも付いてなく薄暗かった。
俺が最後にカラオケに行ったのって確か小学校の高学年の頃だったっけか。
あまりこういう部屋には慣れてない。というのが素直な感想だ。
つまり何が言いたいかというと、この部屋、エロい。
女子高生と二人きりというシチュエーションが否応にも俺の背中をプッシュ、プッシュしてくる。ーーいや、やめろ! プッシュやめい!!
俺は部屋に入るなりすぐさま明かりを最大にした。おかげでさっきまでのいやらしい雰囲気はどこぞへと消え全く別の空間へと様変わりした。
「これで、よしっ」
うん。これで疚しい気持ちにならずに快く歌えるな。
そう思っているとあかねが何気ないおもむきで部屋に入ってきて、その流れのままマイクを手にした。
よくよく考えてみるとあかねとこうして二人っきりでカラオケなんて初めてだな。……なんか緊張してきた。俺も先にトイレに行っておくか。
◇◆◇
「あなたの瞳に~、私のハートが~」
突然聞こえてきた声色に俺は心を奪われる。
トイレを済ませ部屋に戻ると既にあかねが歌っていた。
耳の鼓膜を伝い聞こえてきた声は艶やかだった。まさに女性ならではの煌びやかさのある歌声だった。
普段会話で聞く何気ないあかねの声がマイクという音響材を通すだけでこんなにも豹変するのか!? と俺はつい自分の耳を疑ってしまった。しかし、尚も続く歌声に否応なしに魅了された。
「ハッ」
気が付くとあかねの歌は終わっていた。
口を開けたまま視線を移すとテレビ画面は採点シーンに切り替わっていた。俺はうっかりずっと掴んでいたドアノブから手をを離しソファへといく。
一口も飲んでないジュースを初めて口に運び、目に染みるほどの炭酸を味わいながら何気なく画面を見ると、
ーー九十八点だった。
へえ、九十八点かー……。
「きゅ、九十八点!?」
思わず画面に大声をあげてしまった。
た、確かこの店にはLIVE DAMの機種しか置かれてなかったはず! 最後にカラオケにいったのが小学生の頃だった俺でもカラオケの主な機種くらいは知っている。あと俺の数少ない友達、例えば健とかから、あそこのカラオケ店は雰囲気が良かったとか悪かったとか正直どうでもいい話をよく聞かされていた。
その下らない話の中にここの店はLIVE DAMしか置いてないというどうでもいい情報も交じっていた。
健はあれで結構友達が多い。部活帰りによくカラオケにいくらしい。おかげで今、俺はこうして驚愕に身を投じている訳だが。
それにしても九十八点だと……! んなバカな!
「お、おいこの機械ちょっと壊れてるんじゃないのか?」
「は? それってどういうことよ! 私の華麗な歌声にケチつける気?」
俺の疑問を払拭するかのごとくあかねが食ってかかってきた。
しかしここで四の五の言ってもしょうがないのでしぶしぶ認めることにし、再びジュースへと意識を向けた。……というより認めざるを得なかった。
テレビ画面には漫然と九十八点という至高の得点が叩きだされている。外野の俺が何を言ったって意味のないこと。正直悔しい。例えるなら試合の前から負けが決まっているみたいな。こういうのなんて言うんだっけ、消化試合だっけか? よくわからん。
しかし今度は俺の番だ! ……といってもこの部屋には俺とあかねの二人しかいないので順番もクソもないが。
俺はタッチパネル式のリモコンを操作し次の曲を入れた。
「なんか曲選ぶの早くない? 真ってば一年の時からそうだよね。そんなに急がなくても時間はたっぷりあるのに」
とあかねがそそをいれてきた。
「そ、そうか? 別にそんなつもりはなかったけど。ハハ、どうやら俺も久しぶりのカラオケで早く歌いたいのかな」
たった今リモコンに入力した曲がテレビ画面、その右下に映った。やがてイントロが流れてきた。
俺は目の前にあったマイクを掴み歌うことに集中した。