●Job Hopper第9話(全9話) | 大森善郎のビジネス英語道場

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大森善郎のビジネス英語道場「オバマ大統領のスピーチから学ぶ世界の一般常識」

12月28日
仕事納めの年末
街は師走の慌しさに満ちていた

人材紹介会社を通じて△△△社に断りの連絡を入れた
私が勝手に外資の募集を受けて、そちらを選択したのだ、ということにして
(責任をもつ、と言っていたのはこういうことだったんだな)

△△△社に正式に謝りの挨拶に行った
人事課長は怒っていた
「もう制服を合わせるだけだったんだよ。
みんな待っていたんだよ。」
「………」
空白の時が流れた
「黙っていちゃ分からないだろう。
いったいどうしてなんだ!」

(紹介会社からのアドバイスを受けていた)

「外資の方が給料が高くて…」
「だったら言えばいいじゃないか!
連絡してくればいいじゃないか!
そんなことで人を裏切るのか?!」

(まったくおっしゃる通りだ。何も返す言葉なんてない。)

嫌いだから怒っているんじゃない、好いてくれているから怒っている、人のよさそう な人事課長の顔が正面から見られなかった

帰り際に更に温厚そうな人事部長が、息を吐き出すように、静かに、しかし内面の激 しさを吐露するように言った
今でも忘れられない
いや永久に残るだろう

「社長面接までいって…
我々は始末書ものだよ」
「…」
「しかし、そんなことはどうだっていいんだよ」
「…」
「君は早稲田の後輩になるんだよ
しかしこんなやつが早稲田にいたなんて、情けなくてしかたないよ」
「………」
「帰ってくれ、早稲田にこんなやつがいたなんて、恥ずかしくてしかたないよ」

どんなに喉元まで出かかっただろう
(先輩!違うんですよ、ちがう、そうじゃないんですよ)

しかし、追い払われるように部屋を後にするしかなかった
人事部長の寂しげな背中を目にしながら・・・

最初の会社でも、次の会社でも(そしてその後入ったコダックでも)そうだった
常に早稲田の先輩は、ただ後輩というだけでかわいがってくれた
(今でもお世話になっている税理士さんは地元の稲門会で知り合った先輩だ)

夢も大切だ
しかし人の信頼のほうが大切だ
信じて愛してくれた先輩に、こんなくさったやつが早稲田の後輩に、と思われることが辛くてならなかった

しかし、しがらみがある
ここで真実を話せば、人材会社にもコダックにもまた迷惑がかかる
(いつか、いつかきっと将来、真実を話したい)
直接には何もできない
ただこれから早稲田の後輩の面倒をみることで間接的に恩返しをしよう、と心に誓うしかなかった

新宿の高層ビルを出ると、こんな心の嵐も知らず、何も変わらぬ日常が待っていた
もう後ろを振り返ることは許されない
新たなチャレンジに向かって踏み出すしかない

夕闇迫る大都会のアスファルトを一歩ずつ踏みしめて歩いていった



(そう、俺は夢を追いかけ、さすらう奴…
 Job Hopperさ・・・)



(後日談)
数年後、コダックで△△△社を担当することになった
かなり親しくなってから、何気なく人事部長の消息をきいた
既に定年退職したあとだった…



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