※このブログは登場する方々の氏名を一部変えて掲載しています。





NTT久慈支店から連絡が入り、東北大会の宿が決まったということでした。


担当課長さんは


『いや~残念。俺引率していきたかったけど出張なんだよね~』


というわけで、代わりにNTT職員の美江さんを紹介してくださいました。


実は、この美江さん、私が二回目のコンクールに出た時の

『プロジェクトチーム』の一人、大島さんの奥様でした。


ちなみに、美江さんは私と同じ一人っ子。


ついでに担当課長さんも一人っ子だそうです。


美江さんが青森行きのバスの時刻を調べてくれたり

ホテルの場所を確認したりと手配を全て整えてくれました。


そして、東北大会を迎えるまで、県代表の5人で連絡を

取り合いながら、お互いのスクリプトにアドバイスをしたり

励ましあったりしながら、日々を過ごしていきました。


中でも、率先して皆を指導してくれたのが

昨年東北大会で優勝したマユさんでした。


コンクールのキャリアも長く、大会での経験も豊富なマユさん。


事前研修はもちろん、コーチもなく、独学でコツコツと

コンクールに取り組んで確実に勝ち上がってきたマユさん。


落ち着いた声のトーン、品のある丁寧な言い回し。


そんなマユさんのアドバイスに皆絶大な信頼を寄せていました。



いよいよ東北大会前日。


美江さんと2人、青森行きのバスに揺られながら

お菓子を食べたり、ジュースを飲んだりと

まるで遠足気分でした。


なんとなく美江さんに尋ねました。


「美江さん、明日何着ます?」


『うん、一応スーツ持ってきたの』


え?スーツ?


私は、どうせ式典やパーティーでもないしと軽く考えて

スーツではなく、スカートにニットのアンサンブルを

準備していました。


今にして思えば、選手はそれぞれ会社や地域を代表して

コンクールに参加しているわけです。

ですから、フォーマルと心得て当然なのに、

私は長くコンクールに携わっていたにも関わらず

そのような場で、会社の制服以外何を着たらいいのか

全然考えていなかったのです。


それに、競技のことだけで一杯一杯で

着る物まで頭が回らなかったというのが

正直なところでした。


スーツが良かったのかな?


・・・しまった。


出発したばかりというのに、くじけそうになりました。


美江さんと2人、青森駅に着いてからタクシーで

ホテルに向かいました。


ホテルはツインお部屋で、落ち着いた色合いの

シックなインテリアで統一されていました。


夕食を終えた後は部屋で練習です。


美江さんは私を気遣って、練習相手を務めてくれた後は

話しかけることもなく、そっとしておいてくれました。


ベッドに入ってからもなかなか寝付けなくて


(明日、失敗したらどうしよう)


(前に東北大会で舞い上がっておしまいだったから今度は後悔したくない)


(今回は出来るだけのことをしたんだからきっと大丈夫)


(東北大会で上位3名に入れば全国大会にいける)


【全国大会】と頭に浮かんだ途端、ぶるっと身体が

震えました。


(全国大会・・・)


(ここまで来たんだから、ここで終わりたくない・・)


(できたら、次の全国大会も出てみたい・・)


(でも、できるのかな・・私、勝ち上がることができるのかな・・)


(練習はしたけれど、レベルが違いすぎて無理なんじゃ・・・)


(でも、勝ちたい・・)


(でも・・・でも・・・・・・)


(・・・・)


いつの間にか眠りに落ちていきました。


東北大会当日。


マユさんの部屋にみんな集まりました。


マユさん、由実さん、サカさん、千秋さん、そして私。


・・・やっぱりみんなスーツです。


マユさんが


『じゃ、発声練習からいきましょうか』


あ・え・い・う・え・お・あ・お


か・け・き・く・け・こ・か・こ


さ・せ・し・す・・・・・


全員で円陣を組んで発声練習。


それから、2人ずつペアになってスクリプトと応対の最終確認。


マユさんが私に


『うん。よくなってる。大丈夫だね』


と、声をかけてくれました。


東北大会優勝者からそう言ってもらえて、嬉しくてにっこり笑いました。


全員とも声がよく出ていて、スクリプトもスムーズ。


私たちは誰ともなしに笑顔になり


『よし!大丈夫!私たち5人の中から必ず全国大会に

出る選手がいるよ!』


岩手代表の私たちは明るいムードに包まれ

もう勝利を手にしたかのようにはしゃいでいました。


誰もが調子よく、無駄な緊張もなく、それぞれが

自信に満ちていました。


『そろそろ行こうか』



私たちはこうして、会場に向かったのです。