関越道の沼田ICを出て国道120号線を日光方面に向かう途中、 椎坂白沢・利根トンネルを抜けて間も無く右側に『老神温泉』と書かれた昭和風の看板が目に入る。私が一~二か月に一度訪ねている温泉街への案内だ。



初めて老神温泉の存在を知ったのは今から30年くらい前、単車に乗っていたころ。東京からそんなに遠く無く、気持ちのいいカーブが続くこの山岳道路が気に入って何度も走っていた。いろは坂から降りてくると椎坂峠の手前付近の随所にある看板。フォントが古めかしく「随分古い看板だなぁ…果たしてこの先に今でも温泉街なんてあるのだろうか?」「多分廃墟ばかりだろう」などと思っていた。因みに国道120号線をそのまま通り過ぎるだけでは、温泉街の姿など見えない。

インターネットも既に普及した13年前、群馬~新潟県境で山登りの予定を立てた。登山の後に渋滞の関越道を帰って来るのはかったるいと思い、沼田ICに近いところで一泊しようと調べて見つけたのが東明館という宿。それから時折ハイキングの度に使うようになった。それでも一~二年に一回くらい。それがいつの間にか一~二か月に一度の頻度になってしまった。途中、観光もハイキングもせずに温泉直行。とにかくお湯がいいのだ。



私の仕事はタクシー運転手。一日中座り放しなので腰痛と痔疾は職業病なのだが、ここに通うようになってからはトラブルは無し。ヨメも介護の仕事でこちらも腰痛は付き物なのだが効き目はあるみたい。

現在の老神温泉、戦前に老神温泉と穴原温泉、大楊温泉の三つが合わさって『老神温泉郷』となった。源泉もいくつかあるのだがどれも単純泉。長湯が出来るやつ。東明館以外の老神温泉の宿もいくつか泊まったが、今のところここのお湯が一番好き。若干の硫黄の香り時に金属臭。日と時間によってお湯は透明だったり白く濁っていたり黒っぽかったり。鮮度が良くてかつ包み込まれるカンジで気持ちがいい。ただし東明館、一部の埼玉県民には有名な『ぎょうざの満洲』の経営。食事のメニューも町中華。地元の山の食材を使った…なんてのはいくら待っても出てこない。なのでそういうのを頂きながら日本酒を傾けたい時には他の宿を使ってる。





『老神温泉』でググると「かつてバブルの頃には賑わった」「廃墟」「ストリップ小屋」等々出てくる。まあ、昔話はいいとして私がこの温泉街を好きな理由は「何も無い」というのに尽きる。同じ群馬には絶対王者の草津温泉があり、これまた訪れる人の多い伊香保温泉もある。他には水上温泉や四万温泉も。しかし老神温泉にはそうした有名な温泉街のような派手さや、観光客向けあるいは若者向けの気の利いたお店がある訳でも無い。インバウンドとも無縁。







何か特別なものがある訳でもなく、でも、日本のどこの田舎にもあるようなこんな景色を眺めながら散歩してると楽しいんだよね。自宅を昼頃に出て練馬ICから関越道で90分。その近さも疲れない。普段使いの温泉街と宿。