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新宿二丁目で働いていたことがある。



今から30年以上前の、ぼくが20歳台後半の頃。連帯保証人になっていた実父の借金がきっかけ。当時は最初の妻と婚姻生活中。保育園に通う子供もいて、何かといろいろお金がかかる時期。世間はバブルか何かだったようでいろいろ浮かれていた。

父の借金を何とかするため(当時の)妻には迷惑をかけないよう、こっそりとアルバイトを始めた。でも、正業は多忙な営業職。差支えないものは何かといろいろ探したが、職場からも近く高収入、かつ自由出勤…つまり出れるときに働けばいいという条件で見つかったのが新宿二丁目。要は同性である男相手のウリ。

ぼくの恋愛対象はほとんど女性なんだけど、男相手のそういう方が需要はある。相手が女性であれ、男性であれ、大概『買う』のは男。確実に稼ぎたかった。異性相手のホストというのもあるけど、それで稼ごうと思うのなら余程腰を入れてやらなければいけないので無理。



ネット普及以前のスマホも無い時代、求人誌の広告を見て電話。
「二丁目のビッグス新宿ビルまで来たらそこから電話下さい」

数日後、会社帰りに指定の場所に行く。で、面接。そのお店の建前は『25歳未満の、ノンケの男の子』だった。ぼくは既に27歳だったが
「お客サンが免許証とか見て確かめる訳じゃないんだから見た目良ければ問題ないでしょ♪」

そのバイト先『M』。雛壇のようなとこに座った男の子達をマジックミラー越しにお客が選んで指名する。店内にはシャワールームと個室があり、そこでプレイ。但し『ノンケ』が売りのお店なので、どこまでするかは男の子次第。無理強いはナシ。

結果はそこそこ稼げた。裸になったぼくを撫でまわしたり匂いを嗅いだり、その程度なんだけど。
「ぼくの裸を見て触って、それで何が楽しいんだろう?」
と何度も思ったが…



高校一年生の頃、こんなことがあった。


先輩が深夜一升瓶片手に
「頼む!一晩だけ連中の面倒見てくれ!」。
施設から脱走してきたジャージ姿の三人組。みんなで酒飲んで就寝。間も無く
「この人かわいいじゃん」
一方で
「やめとけよ」。
誰かがぼくを触りだした。その頃は理髪店に行くカネも無く、女の子みたいに髪を伸ばしていた。


(高校生のぼく)

その後間も無く。44年前の16歳の時、望まない性的行為を強要されていた。相手は当時家出していた時に世話になった一つ上の先輩。夜中、下着の中に入れられた他人の手の感触で目が覚めた。ぼくはその場で強く断れなかった。義理とか上下関係とか、そういうのがいろいろ頭の中を巡った。

家出を終えた後も彼から度々呼び出された。断っても家まで押しかけて来る。そんな状態がしばらく続いたぼくに短絡的な考えが浮かんだ。

「殺してしまえばいい」。

キッチンにあった牛刀を持ち出し彼の地元に向かった。一方、異変に気付いた父は
「息子が包丁持って家を飛び出した」
と警察に通報する。一方のぼく。殺す気で向かったものの躊躇し、二日間徘徊したあげく警察に捕まった。

なのでぼくみたいなのでも『需要』はあるんだなとなんとなく思っていた。ならばそれをお金に替えようと。家族…特に子供を養うのなら何でもするよと。二丁目でのことはそれはそれでいろいろあったんだけど、詳細は別の機会に。



そんなある日、正業の方の会社で『研修』と称した、たぶん税金対策の社員レクリエーションの一環の海外旅行。行き先はシンガポール。

夏直前の梅雨空のある日。成田を発った飛行機は本州の南に伸びた梅雨前線を通過しているのだろうかしばらくガタガタ揺れて、それから程なく。窓から下を見ると真っ青な海がキラキラ輝いている。時折ポツンポツンと小さな島や岩礁が浮かぶ。
「かつてわが軍は、ここで戦ったんだろうか」
などと考えていた。

チャンギ空港に着いた時には既に夜だった。生暖かい風、あきらかに日本とは異なる匂い、でも建物内はどこもキンキンに冷えている。ぼくは悪い男なので当時、職場にも付き合っている女性がいた。会社が用意した、ラッフルズの向かいのホテルで彼女と数日過ごした。やがてそんな関係も露見し、呼び出された彼女と共に妻の前で平身低頭謝罪するハメになるのだが、それも別の機会に。



帰国して、二丁目に通う日々。だけど機内から見たあの海が忘れられなかった。何故だか今までの女性のこと、借金のこと、その他いろいろ…一旦整理したくなった。理由はわからない。


(長男五歳のころ)

 

間も無く新宿二丁目の方はやめた。同性愛をテーマとしたテレビドラマ『同窓会』が放送されていた頃。出演人物の多くは当時のぼくと同じ27歳という設定だったと記憶。