タクシーの仕事中、お客サンから「ライドシェアが始まるようですが、どう思いますか?」と聞かれることが最近度々。正直いって「別に…」と思ってる。

所謂「タクシー不足」を解消するため、四月から東京の23区及び武蔵野・三鷹市(23区武三)や神奈川の横浜・川崎市(京浜)などでタクシー会社が主体となり、曜日や時間を限定した『日本型ライドシェア』が導入される。で、私達タクシー運転手にとってそれで何か変わるのか、蓋を開けてみないとわからないけど何となく想像はつく。

「タクシー不足」と言われているが、一日通しての需要に対して供給は足りているのだ。曜日によっては深夜の繁華街でも客待ちの空車が長蛇の列を成しているし、インバウンドなんちゃら叫ぶ割には、羽田空港第三ターミナルのタクシープールは大概満杯。先日地方から来たお客サン「タクシー捕まらないってニュースで見たけど、いっぱい(空車のタクシーが)走ってますね」と。なので「テレビとかで報道されてるあれは嘘です」と答えておいた。

過疎地はともかく都市部での問題はあくまで波動需要への対応なのだ。例えば朝の通勤時間帯や週末の夜の繁華街、突然の雨などには需要が極端に増加する。しかしタクシー会社としてはそんな需要のピークに合わせてクルマの台数や運転手を用意したら倒産してしまうだろう。

という訳での『日本型ライドシェア』導入。これならタクシー会社がわざわざ営業用の車両を増やさなくていい。業務委託なのかアルバイトなのかわからないが、そうした契約を結んだ働き手の方でクルマを用意してくれる。

ところがなのだけど稼げると言われている都心から程近いところで、タクシーの真似事が出来る自家用車…運転手以外に四名以上は乗れる普通乗用車で、インバウンドも考慮し大型スーツケース二つ以上積めて、そこそこ新しい安全装置を備えたクルマ…トヨタでいうならアルファードとまでは言わなくても年式の浅いボクシーやノア、ジャパンタクシー(都内でよく見るあれ)のベースとなったシエンタあたりを所有し、平日朝の通勤時間や週末の夜に知らない人を乗せて小銭を稼ぎたいと思う人がどれ程いるのだろうか甚だ疑問だ。都内で自家用車を持っているのはカーマニアの走り屋でも無い限りそこそこ所得のある世帯の人達なのだから、好んでタクシー運転手みたいなアルバイトをしなくてもねと。

タクシーの仕事が「割に合わない」と思われている大きな理由は、労働に見合った対価が得られないのと稼ぎが不安定というのに尽きる。個人タクシーになってしまえばともかく、法人タクシーの運転手の多くは一日20時間拘束の隔日勤務。しかも朝から翌朝までほぼ座りっ放しの成人病まっしぐらだ。で、違反とかで免許が無くなれば即失業。需要も水モノでコロナの頃にはお客が少な過ぎて、代わりにウーバーイーツの配達員の如く食事などを運んでいたくらいだ。

一方で米国型ライドシェアの運転手は、わが国では労働者保護の観点からいろいろ問題視されている業務委託契約。一応は正社員として雇われているタクシー会社の運転手よりも更に不安定な立場だ。ライドシェア推進論者は利用者の目線で語るが、運転手不足が課題であるならば何よりも肝心な、働く側の立場になって考えなければ何も解決しない。

その推進論者達は口を揃えて「(『日本型』ではなく『米国型』の)ライドシェア全面解禁を」と言う。が、米国でライドシェアが発展したのはそもそもアチラのタクシーがボッタクリ等々、質が悪い運転手が多いからだ。私も以前、米国の片田舎に行った時にスーパーまで行って買い物をしようと使ったタクシー運転手から「ポルノはどうだ?」「射撃場を案内するぜ」と全く余計な売り込みをされて辟易した記憶がある。

なるほどニューヨークではウーバーがタクシーを駆逐する勢いだ。つまりタクシーがライドシェアに置き換わったのだ。これはお客と運転が相互に評価し合い、アプリ上に反映させるシステムによるところが大きい。また、同じくライドシェアが伸びている中国の都市部、ここは運転手の質以前に圧倒的にクルマが足りていないという状況に依るものだ。わが国はそのどちらでも無い。急務は波動需要への対応であり、長年これを怠ってきたタクシー業界にも原因はあると考える。必要なのは長時間拘束のみならず、短時間や短期間のみの働きたいという需要への対応や見合った報酬配分…これは同じく運転手不足が深刻な課題のバスやトラック業界の問題と対策は一緒。今以上に多くの人を「運転を生業としたい」と思わせないとダメなのだが、『日本型ライドシェア』にその魅力があるのだろうか?

それと、誰も触れていないこと。近年タクシー業界ではユニバーサルデザインの車両の導入が進んでいる。車椅子ごと乗車可能なあれだ。


(写真はトヨタ自動車のサイトより)

もし、わが国のタクシーがライドシェアに駆逐されたら、そうした試みはどうなるのだろう?