約束した日、ワクワクドキドキしながら京王プラザホテルに向かいました。



ルームナンバーは聞いていたのでロビーから電話をすると、
「エレベーターで上がって来て」

28年ぶりに会ったら何て言えばいい?
やっぱり、Hi!かな? Hello!かな?
なんて考えながらエレベーターを降りました。

番号を見てこっちかな?と廊下を歩き出したら、その先に彼の姿が!
両手をいっぱいに広げて腰をかがめて待っています。

思わず駆け出してその腕の中へ飛び込んで行きました。
お互いに言葉はありません。しばらくはじっと抱き合ったまま。
涙、涙でした。
そして改めて顔を見合わせてキス、キス!

部屋に入って落ち着いて、先ずは娘に親切にしてくれたことへのお礼を言ったと思います。
18歳だった二人が46歳になっていましたが、お互いに顔だちも姿もあまり変わっていないことに安心しました。
彼は眼鏡をかけていることだけが変わりましたが、細身のすらりとした体形はそのまま、肌理の細かいきれいな肌もそのままでした。(その頬っぺたが大好きでした)

沢山沢山話をしました。
お互いの結婚のこと子どものこと。彼には18歳の息子と15歳の娘がいることも知りました。その息子をいかに愛しているかを語り、日本からのお土産は日本のTOYOTAだと言っていました。
私の夫の息子への仕打ちを思い出し、ちょっと寂しい気もしました。

ホテルの大きなガラス窓の外に広がる空が夕焼けに染まり、だんだん暮れなずんで行く景色を見ながらずっと話し続けました。
外へ出た覚えがないので夕食はルームサービスを頼んだのでしょうか。
全く覚えていません。

一つだけ聞きたいかことがあったので訊きました。
「昔付き合っていた頃、あなたの下宿にも何度か行ったのに、キス以上のことをしなかったのはなぜ?」
「それは僕たちは絶対結婚は出来ないと思っていたから」

私の中にもその思いはありましたから、分かっていた答えです。
1950年代の考え方はまだそれが普通でした。

でも再びこうして会うことが出来たのです。

28年の時を越えて、躊躇はありません。

二人は初めてその日結ばれました。



私にとっては夫以外の初めての男性でした。(ちなみに夫も私もお互いが初めての異性でしたが)

その夜はかなり遅くなってからタクシーで家に帰りました。