1946年に発行された「スポック博士の育児書」は世界中で翻訳され、聖書の次に売れたベストセラーとまで言われた育児書です。
私が初めて出産した頃はその育児法が最新式と言われ、殊に聖路加病院では積極的にその最新式のアメリカの育児法を取り入れていました。

それまでの日本の出産はお産婆さんが自宅まで来てくれて、生まれた赤ちゃんは母親の側に寝かせ、母乳を飲ませて育てるというのが一般的でした。
母乳の出の悪い人は町に「乳もみ」という看板を出している産婆さんの所へ行って出るようにマッサージをしてもらったものです。

現代は時代が一回りしてそのやり方がやはり一番良いということになっていますが、1957年当時は全く正反対だったのです。

もし母乳が足りなければ栄養価の高い粉ミルクを溶いて積極的に飲ませる混合栄養法式。哺乳瓶は厳重に消毒をして、飲ませる時間も2時間おきとか3時間おきと決めてきちんと守ること。
母親とは別のベッドに寝かせて、時間外に泣いても決してミルクは飲ませない。
泣いても抱き癖がつくから決して抱かないこと。
頭の形をよくするためにはうつぶせ寝が理想的など。
(これは保育園で窒息死をすることが何件かあって廃止になりました)

初めての出産で慣れないことばかりの若い母親にとってはかなりきつい決まり事ばかりでした。

ミルクも十分飲み、おむつも取り替えたばかりなのにギャーギャーと泣きわめくことがよくあり、「抱いてはいけない」と言われているのでどうしてよいか分からず、母親になりたての22歳の私は赤ん坊と一緒に泣いていたこともよくありました。

今でも忘れられない思い出があります。
退院して1か月目の検診に、赤ん坊を抱いて母に付き添われて病院へ行った時のこと。
小児科の担当医師に言われました。

医「夜中に赤ちゃんが泣いた時、ミルクはやってないでしょうね?」

私「はい、出来るだけそうしていますが、あまりにも泣き止まない時は主人の翌日の仕事にも差し支えるので、少し飲ませることもあります」

医(怒り声で)「だめですよ、そんなことしちゃ!そんなくせがついたら、大人になっても夜中に腹が減ったら何か食べずにいられなくなる人間になってしまいますよ!」

私「はい、気を付けます」(涙声)

母もそばで医者の剣幕におろおろしていたのを覚えています。

それがどうでしょう。
1年も経たないうちに昼寝もたっぷり4,5時間はするようになり、夜もお腹がすいて目を覚ますどころか、オネショをしても目を覚まさないくらいよく寝る子に育ちました。

大人になってからは知りませんが、夜中にお腹が空いたら何か食べたっていいじゃないですか。