中学校で初めての夏休みが終わり、2学期が始まりました。
ようやく英語の先生が見つかり、赴任して来られていました。
背の高い若い男の先生です。

さっそく授業が始まりました。
先生は自己紹介から始められましたが、日本語は使わず全部英語です。
まだ習っていない単語は黒板に書いて意味も教えてくださったのでよく分かりました。
それによると先生はまだ早稲田大学の商学部の学生で21歳。
杉並区のお兄さん夫婦の家に住んでいるとのことでした。

今思えばずい分若い先生ですが、13歳の私たちからすれば十分に大人でしたし、当時は何しろ英語の先生不足。
資格がなくても大学の教授の推薦さえあれば誰でもなれたのだそうです。
声がバリトンで発音が良いので、英語好きの生徒は男女ともにみんな先生のファンになりました。(後に発声が外人並みだと、発音も良くなることがよくわかりました)

授業ではあまり日本語を使わず、ほとんど英語と身振り手振りで教え、時にはブラウニングの詩をプリントして配って朗読させたりもしました。(今でもその詩の1節を覚えています)

放課後には「英語クラブ」と言うのを作って希望者を集めては英語のジョークなどを黒板に書いて教えてくれました。

まだ部活など何もない時代のことです。
この「英語クラブ」には男女合わせて10人くらいが参加していましたが、時には休みの日に何人かで先生のご自宅へ押しかけたり、先生とハイキングに行ったりもしました。

そして3学期には先生の用意した台本を元にイソップの「北風と太陽」の英語劇を発表するまでになりました。

しかしこの先生の教え方(実はダイレクト法という教授法)は、東洋哲学が専門だという校長のおじいちゃん先生の逆鱗に触れ、私たちの知らない所でもめ事が絶えなかったそうなのです。

そして、その先生はその学期限りでクビになりました。