真夏の太陽がジリジリと照りつける校庭
    修学旅行にでも行くように
    嬉々として出発した  もんぺ姿の国民学校4年生
    背には学用品を入れたランドセル
    手にはわずかばかりの着替えと洗面具
    
    何時間もガタゴトと汽車にゆられ
    福島からまた小さな電車で 川沿いの温泉町に着く
    大広間での歓迎会、歌、踊り、幻燈
    
    やがて これが修学旅行ではなく
    帰れるあてのない旅であることに 気付いたころ
    子どもたちの顔から笑いが消えた

    たまらなくなって手紙を書く ひもじくても帰りたくても
    「おかあちゃん!」と大声で叫びたくても
    「元気で楽しく暮らしています」と書かなければならない手紙     
    を

    いもづるの味噌汁 人参の葉の煮つけ
    一粒ずつ食べないと すぐになくなる ごはん
    一日中ひもじかった
    荷物が届くと みんなの目が光る
    食べ物が出てくると没収された

    土地の子に 疎開っ子といじめられた学校からの帰り道
    下駄の鼻緒が切れて 雪の中を裸足で宿まで帰った日
    真っ赤になった足をさすりながら
    母さんの 熱い砂糖湯が 恋しかった

    あれから もう27年の月日が流れた

この詩は昭和46年(1971年)5月1日に放送されたフジTVの
「小川 宏ショー」の”私のイメージ”というコーナーで放映されたものです。当時私は36歳でした。

その頃小川宏ショーでは、週に一回「私のイメージ」というコーナーで1枚の写真を見せ、そこからのイメージで詩を作って応募するという企画がありました。
この時の写真は、小旗を掲げたガイドさんの後ろに大勢の観光客がついて歩いているものだったのですが、見た瞬間に私の頭に浮かんだ風景は上記の詩に書いた通りのものでした。

その場でサッと書いて送ったら幸運にも入選し、スタジオにも呼ばれて目の前で奈良岡朋子さんが朗読をしてくださいました。
そして、どなたが書かれたのか、とても暖かい感じの文字で書かれた額まで頂いたのです。今でも大切にしまってあります。