道房はマスターの言葉に落胆してしまった。この先もひたすら雲をつかむしかないのは辛いと感じたからだ。ガックリとうなだれる。
「だから私は方向転換したんです」
マスターの話には続きがあった。道房は目線を上げ、もう一度マスターの方を向く。
「方向転換って？」
「はい。世の中のスキャンダルを追うのではなく、自分で記事をつくればいい。つまり、雲をつかみに行くのではなく自分でその実態をつくればいいということに気づいたんです。だから私は自分の書きたいものに対して取材をし、それを記事にして雑誌社に売り込むようにしたんです」
「それでどうなったんですか？」
マスターの話に食い入るように身を乗り出す道房。続きが気になるようだ。
「正直なところ、収入的には減ってしまいました。なにしろ私が書いたものは世の中の人が欲しがっているようなスキャンダル記事ではありませんからね。けれど、心の余裕ができました。そのときに出会ったんです」
「出会ったって？」
「コーヒーにです。とある取材で出会ったコーヒー。これが私を虜にしました。そこからコーヒーを極めるようになり、書く記事もコーヒーについてが多くなったんです」
そこでニコリと笑うマスター。
〜おしらせ〜
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