「うふふ、やっぱりこういう良さっていうのは、わかる人にはわかるのよねぇ」
綺咲はとてもうれしそうな顔をしている。このとき妃美子は思った。綺咲は自分のことを理解してくれる人が今まで周りにいなかったんだ。だからもっと自分の思いや考えを理解して欲しい。それがマウントという行為になっていたんだということを。
「おまたせしました。こちらがおすすめのコーヒーです。どんな味がしたのか、ぜひ聞かせてください」
マスターはあえてその名前を出さずに、二人に淹れたてのコーヒーを差し出した。中身はもちろん、シェリー・ブレンドである。
「いただきまーす」
ごきげんな顔をして綺咲は早速コーヒーに口をつけた。妃美子はワンテンポ遅れてコーヒーカップを手にする。
「うん、すごくいい香り。そして口の中で酸味と苦味、さらには甘みが広がるわね。コクもすごくあるし。ブルーマウンテンは気品があるって感じがするけれど、このコーヒーは気品を持ちながらも、もっと親しみを感じるわ。そう、親しみを」
綺咲は「親しみ」という言葉を繰り返す。そしてカップを置いて、急に下を向いた。
「どうしてみんな、もっと私に親しみを感じてくれないんだろう…どうして…」
〜おしらせ〜
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