隆史の言葉に、女性客はちょっと引き気味になっている。無理もない、ようやく念願の喫茶店に来ることができたと思ったら、お目当ての女性店員はもういない。さらにマスターは交代している。その上、中年の男性から馴れ馴れしく迫られているのだから。
女性客は、しばらく私には構わないでくれと言わんばかりに、バッグからスマホを取り出して操作を始めた。けれど、隆史はそんなことお構いなしにさらに話しかける。
「このお店のこと、どこで聞いてきたんですか?お友達とか?マスターは変わっちゃいましたけど、シェリー・ブレンドの魔法は健在ですからね。安心してくださいよ」
にこにこ顔の隆史の圧力に、女性客はどうしようかとまどっていた。ここで下手に応えようものなら、さらに輪をかけて何かを言ってくるに違いない。何も言わなくても、もっと話しかけてきそうだ。
「加藤さん、初対面のお客様にそんなに図々しくするものじゃありませんよ。お待たせしました、シェリー・ブレンドです」
このとき、マスターがコーヒーを運んできてくれた。女性客にとっては救世主登場といったところだ。安堵の表情を浮かべて、緊張感が一気にとけた。そのおかげで笑顔になれた。