マスターはそう言うと、お店をぐるりと見回した。そうか、そうだよな。マスターの決断、これは大きな想いがあるはずだ。マスターの神の手で、今までたくさんのお客さんの幸せが生まれたに違いない。私もその中の一人だ。
神の手を持つ者の使命がそこにある。それは人の幸せを願い、成就していくためのもの。そして、私は今日、その神の手を授かることができた。ということは、私にもその使命が生まれたということになる。
「マスター、今まで本当にお疲れさまでした。これからはご自分が進むべき新しい道を、思ったように進んでみて下さい」
「はい、ぜひそうさせていただきます。私が本来進むべき道をあらためて見出すことができたのも、靖雄さん、あなたのおかげです。そして、私が今まで築いてきたものを受け継いでくれる人ができて、本当によかった。この先、よろしくお願いします」
「はい、ありがとうございます。今までマスターが蓄積してきたものをしっかりと受け継ぎ、この店を守っていきます」
そう、私がマスターから耳打ちされたことは、このお店を私が引き継いでいくことである。これからは私がこのカフェ・シェリーのマスターとなって、魔法のコーヒーを淹れるのだ。