そうつぶやいたその瞬間、何かが私に微笑みかけてくれた気がした。直感的に、あの子が私の元から旅立ってくれた。そんな気がした。これで私も、あの子も笑顔で旅に出ることができる。そう感じることができた。
「さ、行きましょう!」
夫に声をかけて、いざ出発。こうして私の新しい、ほんとうの意味の旅は始まった。人生という名の旅が。
「それで、どうなったの?」
目の前にはのりちゃんが興味深そうな顔つきで私の話の続きを聞いてくる。
「それでね、その温泉で猿に遭遇しちゃって。もうびっくりよ。まさか野生動物と一緒にお風呂に入れるなんて思いもしなかったから」
「なんかちょっと怖い気もするけど。でも、おもしろそうだなぁ」
「のりちゃんも彼氏ができたら一緒に行ってみるといいわよ。あ、でも混浴はないからね」
「やだぁ、混浴なんてはずかしいじゃない。それよりも、おばちゃんと一緒に行ってみたいな」
「あら、私もまぜてよ」
電気屋の奥さんも会話に加わる。私の旅行の話で盛り上がるひととき。今まで私が話題の中心になるなんてなかったこと。
旅行から帰って早々、のりちゃんが旅行の話を聞きたいということで、こんな感じになってしまった。なんだか楽しいな。