「部長、ひょっとしてそれって食べ物ですか?食べ物の恨みは恐ろしいですからねぇ」
笑いながらそう言った。けれどこれも冗談ではない。こういった小さな約束をキチンと守らないと、上司としての信頼を失ってしまうことになる。
ふとここでひらめいた。
「部長、羽賀さんのコーチングを個人で受けるなら、ちょっとおもしろいところがあるのですが」
「おもしろいところ?」
「はい、喫茶店なのですが、ここのコーヒーがちょっと変わっていまして。何がどう変わっているのかは体験してからのお楽しみです。部長なら間違いなく気に入りますよ。私がお約束します」
「谷川くん、その約束、ちゃんと守れるんだろうね?」
部長、ニヤリと笑ってそう言う。
「もちろん、この約束はきちんと守れますよ」
私もニヤリと笑ってそれに応えた。まるで悪代官と悪徳商人の会話だな。
「部長、羽賀さんへの連絡は私の方でやっておきます。よかったら今度その喫茶店にお連れしますね」
「あぁ、ありがとう」
なんのことはない、私があのカフェ・シェリーに行ってみたいと思っているだけだ。そしてまたあの魔法のコーヒー、シェリーブレンドを飲んでみたい。今度はどんな体験をさせてくれるのかな。
<第94話 完>