「運命、ですか。それって人生を諦めているってことにならないですか?」
佐伯先生、真剣な顔で私にそう言う。私はなにも人生を諦めているわけではない。けれど、運命として変えることができないものは仕方ないではないか。妻が死んでしまったのも運命、転勤を命じられたのも運命、朝礼を変えようとしないスタッフがいることも運命。何が変えられるというのだ。
「あの、差し出がましいと思うのですが。そちらの方、えっと山鹿さんでしたっけ。よかったらもう一度、シェリーブレンドを口にしてみませんか?」
「えっ、どうしてですか?」
「このシェリーブレンドは、飲んだ人が望んでいる味がするんです。さきほどの爆発というのも、山鹿さんが望んだことを現しています。今一度、自分が望んでいるものを確認してみてはいかがですか?」
自分が望んでいる味がするだと。そんな馬鹿なと思いつつ、とりあえず言われたとおりにしてみることにした。
コーヒーに口をつける。なんだ、ただのコーヒーじゃないか。だが、その味がすぐに変化し始めた。さっきは感じなかった甘みがする。まさかと思い、もう一口飲むと、今度は苦味と酸味が強く感じられる。これはどういうことだ?