第82話 塀の中から その27 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 そうして三年の月日が経った。

「今までお世話になりました。ありがとうございます」

 塀の門の前で、深々と頭を下げる。そしてあらためて、自分の足で歩き始めた。これからの自分の未来のために。

 塀の外に出たら、まず真っ先に向かわなければ行けないところがある。それはもちろん、カフェ・シェリーである。

 久しぶりに通る街は、一見すると何も変わっていなかった。けれど、自分の目には今までと全く違うものに見える。その輝き、その色合い、その空気。今まで見えていなかったものが見えてきた。そんな気がする。

「ここだ。久しぶりだなぁ」

 一度深呼吸をして、お店に上がる階段をのぼっていく。

カラン・コロン・カラン

 こんな音色だったっけ。なんだかカウベルの音に歓迎されているような気がした。

「いらっしゃいませ」

 女性店員の声がする。そして少し遅れて

「いらっしゃいませ」
と、男性の低くて渋い声。マスターの声だ。

「マスター、今日出てくることができました。今まで本当にありがとうございます」

「清下さん…おかえりなさい」

 マスターのいつもの笑顔。けれど、その目の奥は少し潤んでいた。感極まった表情なのがわかった。

「こちらへどうぞ」