そうして三年の月日が経った。
「今までお世話になりました。ありがとうございます」
塀の門の前で、深々と頭を下げる。そしてあらためて、自分の足で歩き始めた。これからの自分の未来のために。
塀の外に出たら、まず真っ先に向かわなければ行けないところがある。それはもちろん、カフェ・シェリーである。
久しぶりに通る街は、一見すると何も変わっていなかった。けれど、自分の目には今までと全く違うものに見える。その輝き、その色合い、その空気。今まで見えていなかったものが見えてきた。そんな気がする。
「ここだ。久しぶりだなぁ」
一度深呼吸をして、お店に上がる階段をのぼっていく。
カラン・コロン・カラン
こんな音色だったっけ。なんだかカウベルの音に歓迎されているような気がした。
「いらっしゃいませ」
女性店員の声がする。そして少し遅れて
「いらっしゃいませ」
と、男性の低くて渋い声。マスターの声だ。
「マスター、今日出てくることができました。今まで本当にありがとうございます」
「清下さん…おかえりなさい」
マスターのいつもの笑顔。けれど、その目の奥は少し潤んでいた。感極まった表情なのがわかった。
「こちらへどうぞ」