「面会だ」
塀の中に入ってから、今までの仲間と思った連中は、自分の存在を忘れたかのように連絡が途絶えている。身内でさえ、自分のことを恥だと思っているのか全く姿を見せない。
だが、唯一面会をしてくれる人がいる。それがこの人だ。
「清下さん、お元気そうですね」
「ありがとうございます。マスター」
そう、カフェ・シェリーのマスターである。マスターは私が刑務所に入ってから、月に一回の割合で会いに来てくれる。
マスターはその都度、本を差し入れてくれる。最初の頃は、カウンセリング的な心のあり方の本だった。それが徐々に、実用的なビジネス本に変わっていく。
「清下さんがここを出たら、すぐにビジネスが再開できるように。今回はマーケティングに関する本を持ってきましたよ。ぜひビジネスプランを今のうちにまとめてみてくださいね」
そうなんだ、マスターのお陰で自分の仕事のあり方、考え方、そしてこれからの方向を新しく見出すことができている。
今まではお金のため、利益のためと思っていたのだが。今は考え方が全く違っている。もっと世のため、人のため、社会のために働かなくては。そう思えるようになった。これもマスターのおかげだ。