第69話 風船ファンタジーへようこそ その7 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「ぜ、ぜひ紹介してください!」

 私は早速そのお店を紹介してもらい、その足ですぐに向かうことにした。

 心がワクワクしてきた。私がイメージしていたものが実現するかもしれない。土曜の午後で今から仕込みで忙しくなるという時間に、私は紹介されたお店に訪問。オーナー兼シェフの方はていねいに私に対応してくれた。

「なるほど、これはおもしろい。ぜひ取り入れてみたいですね」

 うん、いい感触。しかし次が問題だった。

「今までこれをどこかでやられた実績はあるのですか?」

「えっ、実績ですか…」

 うぅん、まだやったことがない。それどころかバルーンアートの腕前もまだまだ未熟。ここは素直にそのことを伝えてみた。

「なるほど、今からですか…ならば二つほど条件を出してもいいですか?」

 オーナーは前向きな姿勢を持ってもらっているので、ここは条件を飲むしかない。そこで出された条件、一つ目は値段のこと。ある意味実験台に使われるわけだから、格安でお願いしたいとのこと。ここは仕方ないだろう。もう一つは、紹介してもらったバルーンアーティストを入れてくれとのこと。技術面に不安があるから、というのが理由。そこは逆に私も不安があるので早速その場で本人に確認をとって了承してもらった。

「実は月曜日にここでウェディングをやるお客様が打ち合わせにこられます。そこでバルーンウエディングの提案をしてみたいと思いますので、ぜひ同席していただけませんか?」

「えっ、月曜日ですか?」

 困った、月曜日は工場の仕事がある。けれど打ち合わせには行ってみたい。一瞬迷ったが、答は出ている。

「はい、何時からでしょうか?」

 有給がとれるかどうかもわからないのに、私は行くと返事をしてしまった。これでよかったのだろうか? 帰り道、自問自答をしながら考えてみた。目の前のことを考えたら休むべきではなかった。だが、本当にやりたいことに向かって進んでいく。そう考えたら真剣に取り組むべきだ。もう迷わない。帰って主人にこのことを伝えてみた。

「そうか…うん、よかったじゃないか」

 にこりと笑ってそう言ってくれる主人。

「でも…工場が有給をくれなかったらどうしよう?」

「大丈夫だよ。あゆみ、お前はいつまで工場で働くつもりなんだ?」

「えっ!?」

「だって、バルーンの仕事をしていきたいんだろう。だったらいつまでも工場にいる必要はないだろう」

「で、でも…」

「大丈夫、私も働くよ。いつまでもうつを言い訳にしているわけにはいかないからね。実は黙っていたけれど、知り合いのお店から手伝ってくれないかっていうお誘いがあったんだよ。もちろん私の事情も知っているよ」

「あなた…」

 主人の言葉に涙が出てきた。よし、本気で取り組まないと。私は私の夢を叶える。それが今の私に出来る最大の恩返しになるはず。

 迎えた月曜日。

「えぇっ、今日休まれると困るんだよね。あゆみさん、別の日にしてくれない?」

「突然のお願いでもうしわけありませんが。今日じゃないとダメなんです」

「う~ん、他の人に迷惑かけちゃうことになるけど…」

 工場長のその言葉はぐさりときた。けれど私は譲らない。

「であれば、有給ではなく欠勤扱いでもかまいません。今日を外されると、私の未来に関わります」

 私の気迫に押されたのか、工場長はしぶしぶながら有給休暇を認めてくれた。よし、これで準備OK。

 そしてバルーンウエディングの打ち合わせ。ここは新郎、新婦ともその演出にとても喜んでくれた。うん、この笑顔が欲しかったの。私は早速バルーンアーティストのところに行って会場演出の細かい打ち合わせを行った。