第56話 残りの人生 その7 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 私が自転車で回れる期間は、残り二週間。残念ながら日本一周は難しい。北海道上陸を諦めて、東北を南に下ろうとした。だが、それをブログで見た北海道の人から、ぜひうちに来てくれとのリクエストが。

 そう言われたら行かないと。もう期間は度外視しよう。会社のことなんかもういいや。何しろ残された命はあと二ヶ月ちょっとしかないのだから。自分のやりたいことを優先させよう。

 リクエストされた土地に到着したら、さらに信じられないことが待っていた。

「ヒロトシさん、ここではぜひこちらでお願いします」

 そう言って通されたところ。そこは町の公民館で、なんと五十人ほどの人が集まっている。これじゃ十分で終わるなんてことはできない。パフォーマンスだけではなく、多少の私自身の話も含めたトークショーとなってしまった。ただし、なぜ私がこの日本一周に目覚めたか、つまり残りの命が神様から告げられた話は言っていない。今を一生懸命、全力で生きる。この話に終始した。

 これがまた大ウケで。このとき参加した人のブログやフェイスブックから、さらに火がついた。

「ヒロトシさん、北海道ならぜひこちらにおいでください」

 その土地は北海道の真ん中にある。ちょっと上陸してすぐに下ろうと思ったのに、予想外の出来事である。自転車で二日かけてその土地に行くと、今度は三百人ほどのホールが待ち構えていた。さらに、私へのカンパということで有料の講演会にしてくれたそうだ。

 私もさらにトークに熱が入る。おかげで勝手に私を応援するホームページまで立ち上がってしまった。更に次の土地、次の土地という形で、二、三日に一回はなにかしらの会場でパフォーマンス&トークショーを行いながら進んでいくことになった。

 北海道で二週間ほど過ごしたあと、再び本州へ。ここで会社を休業できる期間が終わりになる。さて、どうする?

 私には迷いはない。総務の同僚に電話を入れ、自分の今の状況を話す。

「欠勤扱いでもなんでもいい。クビにしてくれてもいい。日本一周を達成させてくれないか」

「弘寿、それはこちらこそ頼むよ。今お前、我社の広告等になってるんだぞ。ネットで見た取引先の人たちが、おたくの社員ですよねって言ってきてくれて。こりゃ会社を上げて応援しないとと部長と相談してたところなんだぞ」

 なんと、そんなことになっているとは。これで心置きなく日本一周を目指せる。私はさらに先を目指し、行く先々でパフォーマンス&トークショーを開催することとなった。

 私の存在は、一部の人の間では有名人扱いされている。私は、自分の人生をどのように一生懸命生きるのか。そのことだけをパフォーマンスを交えて伝えているだけなのだが。それを実践しているというところに、多くの人が感銘を受けてくれているようだ。その盛り上がり方も尋常ではなくなってきた。

「これからヒロトシさんを一週間密着取材をさせて欲しいんですが」

 そう言ってきたのは、全国放送を行うテレビ局である。バラエティ番組型のドキュメント番組で私のことを取り上げてくれるらしい。断る理由はない。むしろ歓迎すべきことだ。

 それから一週間、私に対しての密着取材が始まった。これで私が生きた証をしっかりと残せる。この一週間、恥ずかしい格好は見せられないと気合が入る。

「どうしてこんなことを始めたのですか?」

 もちろん、この質問がくるのは予想できていた。だが本当のことは言えない。

「今を一生懸命生きるってことを実践したかったんですよ」

 なんて、かっこいい理由をつけてみた。けれどそれは本心。なにしろ私の命は、残りあと一ヶ月半ほどなのだから。

 密着取材も無事に終了。

「これ、いつ頃番組になるのですか?」

「すぐってわけにはいかないんですよね。まだ決定ではないのですが、早くても三ヶ月後くらいかなぁ」

「三ヶ月後ですか…」

 残念ながら私はこの番組を見ることはできないようだな。

「このあとのヒロトシさんの経過はブログや動画で追わせてもらいますね。なんかあったら取材に飛んでいきますよ」

 そういって取材スタッフと別れることに。このとき、私の頭の中でひとつの計画が立っていた。運命の日、運命の時間が過ぎた時にブログですべてを告白しよう。