第50話 志あるもの その7 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 私はそう言って飛び出すようにカフェ・シェリーを後にした。この意欲が、このアイデアがまだ自分の中で燃えているうちに形にしないと。周りから何と言われようと、これは絶対に実現させてみせるぞ。

 この日、私は商工会に戻るとすぐに企画書の作成に取り掛かった。家に帰ってもこのことで頭がいっぱい。おかげで夜中の一時までかかって企画書を作成してしまった。

 翌日、私は早速この企画書を所長に提出。所長はまたかという顔で私から企画書を受け取り目を通した。だが私の自信満々な目と勢いに押されたのか、いつもとは見る目が異なったようだ。

「これを行えば、この地域だけではなく全国的につながっていく。秋山、そういうことか?」

「はい。もちろん、一回や二回やっただけでは無理だと思います。継続した事業として実施することで可能ではないかと考えます」

 所長の目が変わった。どうやら「全国的につながる」というところがヒットしたようだ。

 実はこれは後から聞いた話なのだが。ちょうどそのときに県の商工会から補助金を活用した企画の応募が出ていたとか。これは全国的な規模で行われている事業らしい。所長もそろそろこういった大型の事業で本格的な実績を出さないと、と焦っていたところだったらしい。

「秋山、この進行はお前に任せる。頼んだぞ」

「はい、わかりました」

 初めてじゃないだろうか、所長からこんな言葉をもらったのは。だがこの事業は一人ではできない。うちの商工会メンバーを巻き込んで行わないと。

 私はこの企画書の説明会を時間を割いて開かせてもらった。だが最初はみんなちょっとイヤイヤ的な態度を見せていた。が、実はそうなるのは計算済み。私はそれぞれのメンバーが持っている目標管理制度で掲げた目標を把握している。

 これ、実は全メンバーのものがちゃんと見れるようになっているのだ。だが、だれも他の人のを知ろうとしないだけで。そこで私はなるべく全メンバーの目標がこの事業の中に盛り込まれるように仕組んだのだ。目標が達成できれば査定も上がる。ちょっと餌をぶら下げてみたわけだ。

「なるほど、そうなると経営革新の件数も増えるかもしれないな」

「そうか、これだったら相談の件数も回数も向上するぞ」

 などなど、口々に自分が目標としている項目を語りだした。どうやら撒いた餌が効いてきたようだ。今はバラバラな思いでも、一つのことをやることには変わりない。

「それじゃぁ、この企画に皆さん協力していただけますか?」

 結果的には了解をもらうことができた。よし、ここからがスタートだぞ。

 今から各地区の各組織のリーダー格を集めた説明会とミーティングを開催。このとき、羽賀さんにちょっと相談したら

「ボクの仲間にファシリテーターをやっている人がいるから。堀さんっていうんだけど、彼女に任せたらおもしろいワークショップになると思うよ」

とアドバイスをいただいた。私は早速堀さんに連絡を取り、ワークショップの依頼をした。

「羽賀くんの紹介なら断れないわね。大丈夫、まかせて」

 シャキシャキとした女性で、なんだか安心できそうだ。

 そしてリーダー格を集めたワークショップを開催。これが大評判で、今までにない盛り上がりを見せた。ただ盛り上がっただけではなく、地域が抱える課題が見えてきた。その中でも一番の課題はこれだった。

「各地区、各グループの横の繋がりがない」

 まさに私が懸念し、そして取り組もうとしていたことではないか。この会に参加したメンバーの多くがこのことについて考えていたのか。しかし、どうやったら横の繋がりができるのだろうか。堀さんはこのことについても参加メンバーから答えを出してもらうよう促してくれた。

「何か一つのことをみんなで取り組めるようなプロジェクトをつくるっていうのは?」

「じゃぁ、イベントをやろうか」

「イベントだと一過性のものになるから、商品づくりとかは?」

「それだと業種が偏ってしまうのでは?」