第49話 父の背中 その7 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「でも、そんなお父さんの姿が一生懸命なのがいいんでしょう?」

 私は言いながら思った。どんなことでもいい。一生懸命に取り組めばそれは必ず子どもに届くんだ。

 なんだか答えが見えてきた。そんな気がした。けれど、何に一生懸命になればいいんだろうか?

 このとき、マスターがまた私にこんな質問をしてきた。

「和夫さん、今やっていて楽しいことってなんですか?」

 唐突な質問で私はとまどってしまった。が、直ぐに頭にひらめいたのはこの答えだ。

「私、家事をやっている時が一番楽しいですね。掃除の工夫や洗濯をいかに効率よくやるか、そして料理も工夫次第で安くて美味しい物もつくれるし」

「私、そんなコツが知りたいなぁ。ねぇ、和夫さんってブログとかしないんですか?」

「えっ、ブログですか?」

 そんなこと、考えもしなかった。

「男性がそういうの書くのってめずらしいですよね。ぜひ和夫さんがやっている工夫とかを紹介して欲しいなぁ」

 なるほど、そういったニーズもあるのか。

「でも、ブログとかやったことないんですよね」

「以外に簡単ですよ。パソコンはお使いになりますか?」

「えぇ、一応ありますが、インターネットを見るくらいしか使っていませんが」

「それなら大丈夫です。私もパソコン音痴でしたが、ブログだけは続けられていますから」

 そういってマスターはノートパソコンを取り出して私に見せてくれた。それはカフェ・シェリーのマスターのブログで、日々思った言葉をいろいろと書き綴られていた。さらに、いろんな方からコメントも寄せられている。

「どうやったらそれができるんですか?」

「メールアドレスはお持ちですよね?だったら、ここからこうやって…」

 マスターはブログの登録の方法をその場で教えてくれた。うん、これなら私にもできそうだ。早速ブログを始めてみようかな。そんな気になってきた。

「ありがとうございます。そうか、男性の目線で主婦業のコツを紹介するか。

 そう思うだけで、頭の中にはいろいろなアイデアが渦巻き始めた。

「和夫さん、今どんなことを書こうか、そのネタがいろいろと思い浮かんでいるでしょう?」

「えっ、どうしてそれがわかるんですか?」

「目線が上の方を向いて、笑顔になっていましたからね。こういうときは、未来のことを考えているときですよ」

 なるほど、そういうものなのか。なんかこのカフェ・シェリーに来ていろいろと元気をもらったな。よし、一生懸命やってみよう。

 私は家に帰って、早速マスターから教えてもらった通りブログを開設してみた。

「タイトル、かぁ…」

 ちょっと悩んで、こんなタイトルを付けてみた。

「カズちゃんの主夫の知恵袋」

 この歳になって、自分のことをカズちゃんなんて呼ぶのもなんだが。まぁ愛称があったほうがウケがいいかなと思って。

 そして早速一回目のブログを記載。これがかなり悩んでしまった。

 やはり自己紹介をするべきなのだろうか。それとも、いきなり伝えたい本題を入れるべきだろうか。

 パソコンの前で悩みすぎて、気がついたら洗濯物の取り込みも晩ご飯の準備もすっかり忘れていたくらいだ。結局今日は手抜き料理になってしまったが、それでも子どもたちや妻のあかりは文句をいう事もなくいつものように食べてくれた。

 その日の夜もブログの記事に悩んで、寝る前にようやく完成。結局、自己紹介を一つの記事にして、もう一つは早速今夜の手抜き料理についての記事を記載した。

 そして翌日。いつものように家族を送り出し、ひと通りの家事も終わって自分のブログを確認した。そこで驚くことが起きていた。なんと、昨日の手抜き料理に対してコメントがついていたのだ。

「できれば写真も入れてください、か」