だからといって、オレの場合本当にだれと協力をすればいいのだ? その疑問を素直に羽賀さんにぶつけてみた。
「なるほど。確かに迫水さんの場合、周りにそういった健康グッズを売る人はいないですね。だからこそ、四つ目の心が効くんじゃないですか? ね、マスター」
「はい、その通りです」
マスターと羽賀さんは目で合図をしながら、オレの言葉に対しての答えを確認しあっていた。まるで、オレがそう質問することがあらかじめわかっていたかのようだ。
「じゃぁ、その四つ目を教えてくださいっ」
オレはがっつくようにマスターに懇願した。
「真也さん、そんなに慌てないで。では四つ目です。それは『人を育てる』、つまり人材育成です。これは先程のカリスマ店員の例でもお伝えしましたが。協力者を育成すること、これも大事なことなのです」
人を育てる。オレは今までずっと一人で商売をやってきた。人を雇って、なんてところまで稼いでいないということも理由なのだが。そんな人を育てる、なんてことは最初から頭になかったのは確かだ。
「企業は人なり、という言葉はよく耳にするでしょう。この人材育成を成功させれば、どんな状況でも儲けを創りだすことは可能なんですよ」
「でも…今は人を雇って育てるなんて余裕はありません…」
「あらぁ、それは大丈夫ですよ。うちの店がやっていることをやればいいんです」
オレの嘆きに、マイさんがそうアドバイスをしてきた。
「このお店がしていること? なんですかそれ、教えてくださいっ!」
オレはなりふり構わず懇願した。とにかく、得られる情報は貪欲に得に行かないと。
オレの勢いにマスターはちょっとびっくりしたが、すぐににこやかな顔に戻ってこう言った。
「真也さん、マイが言ったことはまさに今、この場で行われていることなんです」
「今行われていること?」
「はい、今は何の話をしていましたっけ?」
「人材育成、ですよね」
「そうです。まだお気づきになりませんか?」
えっ、どういうことだ? オレがキョトンとしていると、マスターはさらにこんなヒントをくれた。
「誰が誰を育成しているんでしょうね?」
ここでようやくわかった。そうか、今この場で行われている会話。これこそが人材育成そのものじゃないか。
「わかりましたよ。つまり、マスターたちがオレ、つまりお客さんを育成している。そういうことなんですね」
「そう、その通りです。私たちはお客様に学びの場を提供しているのです」
このとき、頭の中で何かが一瞬ひらめいた。が、すぐにどこかに流されてしまい、それが一体なんだったのかを思い出すことができない。
「マスター、今の言葉をもう一度言ってもらってもいいですか? ちくしょう、今一瞬いいことをひらめいたのに。えぇ~っ、なんだったかなぁ」
「迫水さん、何かいいアイデアがひらめいたんですね。マスター、お願いします」
「うん、それでは私が今の言葉をもう一度言います。そうしたら残りのシェリー・ブレンドを飲んでみてください。きっと何かが見えてきますよ」
マスターの言葉に、オレは残りわずかのシェリー・ブレンドを手にとって構えて待った。
「私が今言ったのは、私たちはお客様に学びの場を提供しているということです」
それっ。すかさずシェリー・ブレンドを口に運ぶ。そして眼を閉じてみる。
このとき、大勢の人の姿が見えた。そしてオレはその人達にむけて何かをしゃべっている。
そうか、オレがお客さんを教育すればいいんだ。そうしたら、お客さんは健康についてさらに深く学ぶ。これは人材育成だ。
すると、その輪が広がる。協力になるな。オレはその情報を無料で提供。まずは与えよ、だ。するとお客様から感謝されるじゃないか。