「ははは、そう言われると言わなきゃいけなくなるじゃないですか」
「言われなくてもいうくせに」
このとき、店員の女性が横から口を挟んできた。なかなか可愛らしくきれいな人だ。
「あ、紹介します。私の妻のマイといいます」
「こんにちは」
えぇっ、ちょっとビックリだなぁ。マスターはどう見ても年齢が四十代半ば。それに対してマイさんはまだ若い。
オレが言葉を失っていると、羽賀さんがすかさずフォローしてくれた。
「マスターは昔高校の先生をやっていてね。マイさんはそのときの教え子だったんだよ。年齢差は二十以上あるけど、どこからどうみてもお似合いのカップルだよ」
「羽賀さん、ありがと。でね、ウチのマスターはホント気前が良すぎて。さっき、まずは与えよって話をしてたでしょ。そのおかげで、多くの人と協力できるようになったんです。ここにいる羽賀さんもそのうちの一人ですし」
「はい、マスターが協力してくれているおかげで、私も商売が成り立っているようなものですよ」
「それ、もっと詳しく教えてください」
商売が成り立つと聞いて、聞かないわけにはいかない。
「ははは、そんなに大したことじゃありませんよ。そうですね、一つたとえ話をしましょう」
どんな話だろう?
「真也さんはブティックの社長です。ここにいる三人がその店員です。そのうちの一人、マイがカリスマ店員ですごい売り上げをあげていたとします。でも他の二人はそうでもない。さて、真也さんだったらお店の売上をあげるのにどうしますか?」
どうするって、他の二人の売上を上げるか、カリスマ店員にもっと稼いでもらうしかないだろう。
「そうですね、他の二人にももっとハッパをかける意味で売り上げランキングをつけて、トップには報奨金を出すとか」
「なるほど、競争ですね。その場合、どう考えても私たち二人はカリスマ店員のマイにはとうてい及びません。また、マイも報奨金が出るとなると、きっと自分のノウハウは独り占めですね」
確かにそうだなぁ。
「だからこそ、協力なんですよ」
「となると、マイさんは他の二人に自分のノウハウを教えるってことですか?」
「そう、その通り。そうすることで、私たち二人は効果的な売り方を学べます」
「でも、それじゃマイさんは教育に時間がかかって、自分が売る時間がなくなってしまい、売上が減るんじゃないですか?」
「そこをカバーするために、協力をするんです。協力をすることでお店の売上はアップします」
マスターの言っていることはわからなくはないが。ここで一つ疑問が出た。
「同じ組織内で協力するって言うのはなんとなくわかりました。でも、オレのところみたいに一人で商売をやっているところはどうなんですか? 協力しようにも、その相手がいないんじゃ意味が無いですよ」
「あら、うちも同じですよ。二人でやっているんですからね。だからこそ、同業者で協力するんです」
マイさんがそう言う。オレはすかさず反論。
「同業者って、ライバルじゃないですか。ただでさえお客の取り合いをやらなきゃいけないのに。協力なんて…」
「つまり、シェアの奪い合いっていうやつですね」
「はい、マスターの言うとおりです。今は競争社会なのに、そんな中で協力は意味があるんですか?」
「真也さん、私はこう思うんです。競争社会だからこそ、協力が必要なんだって。まずは業界全体の客数を増やす。そうすれば当然売上は底上げできます。すると、どのお店も今までのシェアであっても、売上は伸びますよね」
「まぁ、確かにそうですけど」
「実際に、私の指導した居酒屋さんたちはそうやって手を組んで、イベントなどを行って全体の客数を伸ばしているんです」
それニュースで見たことがある。