しかし、私はなぜみらいに心を惹かれてしまったのだろうか? そこが未だに謎である。とびっきり美人というわけでもない。優しさはあるが気が利いているというほどでもない。どちらかといえばおっちょこちょいで、面倒を見てあげないといけないという感じが強い。そんな面倒な女はゴメンだ、と言っていたこともあったのに。
その謎は、カフェ・シェリーで明らかになった。
「こんにちはー」
「あら、いらっしゃい。ほら、やっぱりこの二人だった」
出迎えてくれたマイさんの第一声。
「やっぱりって?」
「この前、お二人が別々に同じような悩みでお店にいらしたでしょう。ひょっとしたらそうじゃないかなって、マスターと話してたんです」
「私もびっくりでした。久島さんが同じ悩みでこのお店に来ていただなんて。それで二人でお礼に行こうって思ったんですよ」
お店は一気に賑やかになった。それからマスターも囲んで四人でいろいろな話をした。特に興味深かったのは、マスターが年下のマイさんをどのようにエスコートしていったのか。それについてはこんなアドバイスをもらった。
「自分が引っ張っていこうと思っちゃだめですよ。私たちの年代の感覚とは違うんですから。こちらが寄り添ったほうがうまくいきますよ」
そんなもんなのかな? みらいの感覚に引っ張られると危なっかしい気もするが。今度はみらいがマイさんに質問をした。
「私はなかなか自分の意志で決められないんですよね。いつも迷っちゃう。だから今回も久島さんに寄り添っていいのか、なかなか決めきれなくて。どうしたらいいと思います?」
その質問に対してのマイさんの答えは明確だった。
「大丈夫よ。今の自分の気持に素直になってみて。どうしても迷ったときには、またシェリー・ブレンドを飲みに来てね」
「はい、ありがとうございます」
みらいの顔がパッと輝いた。そのとき気づいた。そうか、私はみらいのこんな喜ぶ顔が見たかったんだ。みらいの喜ぶ顔を見ることで、私も喜べるんだ。
このとき、マスターが私にそっと耳打ちをした。
「ね、彼女のこういった顔を見るのが一番幸せを感じるでしょう」
マスターの言うとおりだ。さらにマスターは私にささやく。
「男の喜びって、やはり女性をどれだけ喜ばせるかってところにあると思いませんか?」
私はその言葉に納得。今度は私がマスターにささやいた。
「それが私たち男の役目であり、楽しみでもあるんですね」
二人で納得。
「ねぇ、何二人でこそこそ話しているの? 何かよからぬ相談でもしているんでしょ」
マイさんが意地悪っぽく私たちにツッコミを入れる。
「ははは、男には男の喜びがあるって話だよ。ね、そうでしょ」
「はい、マスター」
店の中は笑いで包まれた。
これからの人生をみらいと一緒に歩んでいこうという気持ちが高まっていく。この先みらいの喜ぶ顔を見て暮らしていく日が必ずやってくる。その日を夢見て、私はみらいの頭をそっとなでた。みらいはにこやかに私の気持ちを受け止めてくれた。
男のクリスマス。それはいかにして私たちがサンタになれるか。サンタになれたときには、相手だけではなく自分も嬉しくなれる。今の私みたいに。
マスターの入れてくれたシェリー・ブレンドを飲んで、しみじみとそのことを実感できた。
「幸せになろうな」
「うん」
冬のやわらかな日差しが、そんな私たちを祝福してくれていた。
<第39話 完>