【覚醒】
いったいこれは何だろう。
今までに体験していない音だ。
「ゴアトランス」と言うらしい。
まず、宗教じみて聴こえる。特に信心薄れゆく日本でスノッブど真ん中で生きてきた僕には、
理解できない。
そんな様子を察してか、情報を小出しにジャブってくる彼女。
「鳥のさえずりや自然の音って癒されるよね。このビートも、145bpmくらいで、
人の心拍数に近いっていわれてるんだよ。」て言われても。。
あなたどうみてもこういう音志向する女子に見えないんですけど。
服もコンサバやし。わからんなぁ。。解せん。。
てなことで正直少し不気味だったんで、その夏はほとんどデートせず。
今思うと、悪いことしました。連絡しなかったからね。だって本当に訳わからなかったから。
そして時はそんな状態のまま流れ、98年3月。僕の会社で新入社員歓迎会があった。お花見しながらの宴席で、新人の余興タイム。
似てないモノマネを必死にする人。一気で許してもらう人。かわいいねぇ。去年自分何やったかも覚えてねぇや。。それぐらいどーでもいいイベントだよな。これ。なんて思いながら最後の人。「え?」みんなスーツとかなのに、インド雑貨屋店員みたいなかっこなんすけど。そして芸が、スピリタス持参してきていて、口に含んで、グレートカブキ毒霧みたいに噴霧して、ライターで火つけて人間火炎放射器とかやってんすけど。。聞けば卒業旅行のインドからここに直行してきたと。変わった奴がきたなぁ。。
そして数ヶ月。奴、サーフィンとレイブを愛するYとは、音楽好きな僕もたまに飲んだりしていた、
ある時彼女の話しになって、彼女の不思議な音楽の性向の話しになった。するとYはにんまりと笑って、
「今度彼女さんも一緒に飲みましょうよ。」とさそってきた。断る理由もないので、すんなり次の飲みで合流。いま思うと、彼女とYの間で、その時僕を引きずりこむ算段をしたに違いない。
そしてその時が訪れた。
僕は渋々だった。徹夜だけど眠くなったらテントで寝ればいい。
嫌だったらもう行かなければいい。て言われても。。遠いし野宿だし。。
何でわざわざそんな辛いことしに行くんすか。
長野県大町ダム 高瀬渓谷緑地公園。何もない本当にただの芝生だ。しかも遠かったな東京からまったく。
ナビもねーし、フライヤーみてもよく分からんし、辛うじて音が遠くから微かに聴こえて、近づいたら人がポツポツいたからわかったって感じ。てか道路沿いのフツーすぎるただの公園なんですけど、こんな音出していいんすか?野外集団ピクニック?パンピーの僕の常識では測れない環境のようだ。
夜が暮れる。ただの公園は、わずかなブラックライトの凸で装飾されたフロアーに変わった。
公園には龍の像があり、テントはその近くに張った。近くに、白髪で人口呼吸補助器を引きずりながら歩いている老人がいた。(4、5年前から見ないが、彼はディープなレイブの常連さんで、ヒッピーの生き残りらしいPさんと後に知る)彼は、この龍と台座の石に、「そうか、そうか。」と話しかけている。フロアーは爆音がなり、Yは熱狂のあまり芝生に寝っころがりそのままロールケーキのように転がって、夜露に湿った芝生が全身を覆っている。ちょうどフルムーンで、彼女は生理になった。「自然の摂理だっ!女性ってやっぱりすごい!」と盛り上がるY。僕の初レイブの衝撃、理解いただけるでしょうか。やっぱり思いました。
「これは宗教に違いない。しかも相当タチの悪いneo cultだ。」
彼女ともこれでオサラバだな。このギャップは埋めようがない。そう思った。
結局殆ど踊らず(踊れず)寝る。彼女とYは、楽しんでいたようだ。
日があがる。横のテントの人は、歯磨きしながらニコニコして朝日を眺めている。
「おはよう!」100人もいないだろう極小パーティーにもかかわらず、いやそれだからか、
多くの人が声をかけてくれる。
明るくなり、女子から「きみ汚ないよぉ」と笑われるY。
Y「いやぁちょっと盛り上がり過ぎちゃって。。」
おやおや、よく見ると、小さい子供連れのファミリーもいるね。
帰り道、Yがどうしてもやりたい、やろうと勧めるので、キンキンに冷えた雪どけ水の渓流にダイブした。
頭から足の指先までを覆う覚醒感。寒い夜とジワジワと暖まってくるモーニングの間で熟成した何かが、別の新しいものに変質、僕を支配した。
それが何か分からないが、これが僕の最初のレイブだった。
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