デスパレスの魔物たちは、ある者はピサロの帰還を喜び、
ある者は、ピサロに刃向かって攻撃を加えてきた。
魔物界は、今、完全にピサロ派とエビルプリースト派に別れていて、
ピサロ派の魔物は、
エビルプリーストによって牢に閉じ込められていた。
ピサロは恥じた。
臣下に裏切られた自分を。
魔物界を分裂させ、ここまで悪化させてしまったことを。
そして、こんな政治しかできないエビルプリーストに、
そこそこの地位を与えてしまっていたことを。
ピサロの目的は、
魔族の住みよい世界を作ることにあった。
そして、今、魔族を苦しめているのは、
勇者ではなく、エビルプリーストであった。
ピサロは、エビルプリーストを粛正するのに、
カインの力を借りなければならないのは不本意だったし、
魔族の王だった者として、恥ずべきことだとも思っていた。
しかし、その恥を乗り越えることこそ、
今まさに自分に課せられている使命だとも感じていた。
ピサロには、恥を乗り越え、
エビルプリーストを粛正し、
魔族界を立て直すという使命があった。
こうして相まみえたピサロとエビルプリースト。
一度は魔族の王と臣下という立場であったのだが、
今や、一兵卒と魔族の王と、立場が逆転していた。
エビルプリーストはピサロを罵った。
あれほど蔑んでいた人間と手を組むとは、見下げた奴だ、と。
エビルプリーストのこの挑発に対して、ピサロは憤った。
憤ったが、その怒りに堪えてみせた。
ピサロには、恥を乗り越えなければならない宿命にあったのだから。
カインは、ピサロのことが好きにはなれなかった。
好きにはなれなかったが、
自分の背中をピサロに預ける覚悟はできていた。
カインは、ピサロが堂々として、剣にも呪文にも長けていて、
そして、元魔族の王の名にふさわしく、
信用に足る男だと思えることができていたので。
戦闘に突入すると、
カインとピサロは絶妙のコンビネーションを見せた。
互いが互いを利用するだけ、
そう言っていたピサロだったが、
実戦では、バイキルトで、ベホマで、ベホマラーで、
カインを支援した。
カインもまた、ベホマズンをもってして、ピサロの窮地を救った。
相容れない運命の2人は、
最高のパートナーシップを見せていた。
2人のパートナーシップを陰で支えていたのが、アリーナとミネア。
アリーナは、ライアンより授かった皆殺しの剣で敵の守備力を下げ、
敵の攻撃に先制して賢者の石でパーティの回復を行い、
キラーピアスで2回攻撃し、エビルプリーストを苦しめた。
ミネアは、フバーハでメンバーの身を守り、
ベホマで仲間を回復し、
そして、ライアンのお下がりのはぐれメタルの剣で、
エビルプリーストに斬りつけた。
4人が4人、統制のとれた行動を行い、
エビルプリーストの攻勢を寄せ付けなかった。
エビルプリーストは苦しい思いをしていた。
そもそも1対4の勝負、というのは初めてのことで、
あまりにも不利なことが多すぎた。
こちらが与えるダメージは200か300がいいところ。
ところが、自分は1000のダメージを受けるときもある。
こちらの攻撃は2回がやっと。
ところが、自分は5回斬りつけられることもある。
これで勝てというほうが無理な話である。
遂には、ピサロの魔剣の前にひれ伏すエビルプリースト。
カインとピサロからしたら当然の結果、
エビルプリーストからしたら、とんでもない番狂わせの決戦は、
こうして終焉を迎えた。
終わった。
カインがそう思ったとき、
これから始まる、
とピサロは思っていた。
ピサロは、むしろ、これから立て直していく魔族界について、
思いを馳せていた。
カインはエビルプリーストの野望を打ち砕いたことを
マスタードラゴンに報告に行った。
ピサロとロザリーはそれには同行しなかった。
仮にも自分は魔族を束ねる者。
天空の城などに入れるはずもない。
そう思ってのことだった。
ピサロとロザリーはロザリーヒルに戻った。
そして、寄り添いながら空を見上げていた。
「ロザリー、私は人間を滅ぼすことをやめることにする。」
とピサロ。
それは、短い時間ではあったものの、
ピサロがカインと行動を共にして、
魔物と人間は、
住み分けることができるという結論に達したからだった。
少なくとも、カインがそれを望んでいることが、
ピサロには十分に伝わっていた。
敵ではあったものの、ピサロから見ても、
カインもまた十分に信用に足る存在だった。
ロザリーは嬉しかった、
ピサロが理性を取り戻し、人間との共存を望むようになったことが。
しかし、ロザリーにはわかっていた。
ピサロが、また荒れている魔族界を立て直すために、
忙しく動き回るであろうことが。
ロザリーは問う。
「ピサロ様。行ってしまうのですか。」と。
ピサロが答える。
「いや。」
ロザリーは少し意外そうに首をかしげる。
ピサロはこう続けた。
「しばし、ここに残って休むとしよう。魔族界を立て直すのは、それからでも遅くはなかろう。」
その言葉は、ロザリーとの安息のときを迎えようという、
ピサロの意志を示していた。
意志はロザリーに伝わり、そしてルビーの涙が零れ落ちた。
ルビーを拭いながら、ロザリーが空を指差す。
「ほら、気球が。」
気球に乗っているのはカイン。
マスタードラゴンへの報告を終えて、
仲間たちを故郷に送り届け、
自分もまた、山奥の故郷へと帰る。
狭間での経験により、
今から起こるであろうことは、
カインには予想がついていた。
カインは、まっすぐに村の中心部へと行く。
そして、天空から光が降り注ぐのを待つ。
光は降り注ぎ、人の形となる。
カインは、この光がシンシアであることがわかっていた。
今度は、自分から、羽根帽子をシンシアにかぶせた。
そして見つめ合い、抱き合った。
シンシア、もう放さない。
何があっても、一緒だ。
そうだ、まずは僕にモシャスを教えておくれよ。
ほどなくして、
シンシアは、人の気配に気づいて、カインから離れようとする。
しかし、カインは離さなかった。
カインはシンシアを抱きかかえた。
抱きかかえることには、カインのメッセージが込められていた。
それは、自分が十分に強くなって、十分にシンシアを守れる、
というメッセージ。
だから、もう二度と、自分を犠牲にする必要なんてない、
というメッセージ。
最初は気恥ずかしくて、抵抗しようとしたシンシアだったが、
カインからのメッセージに気付いて、
安心してそれを受け入れたのだった。
そして、カインは、
シンシアを抱えたまま、7人の仲間たちと向かい合い、
そっと言った。
「紹介するよ、シンシア。」
キャスト
カイン:レベル38、経験値:593622
ミネア:レベル38、経験値:503453
マーニャ:レベル37、経験値:494045
トルネコ:レベル40、経験値:523501
ブライ:レベル38、経験値:495844
アリーナ:レベル39、経験値:525300
クリフト:レベル39、経験値:500000
ライアン:レベル39、経験値:530570
ピサロ:レベル36、経験値1297889
プレイ時間:31時間8分
天空からカインたちの姿を見下ろしながら、
下界をうらやましく思うマスタードラゴン。
果たして、マスタードラゴンが下界に降りる日は来るのか。
それを知るためには、
また、別のお話を紹介する必要がありそうである。
To be continued to ドラゴンクエストV
完
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