最後の結界の解放へと向かう。
最後の結界の守り手は、僧侶だった。
ただ、この僧侶、エビルプリーストこそ、
悪の権化であった。
エビルプリーストは言う。
「ほほう、ここまで来たか。しかし遅すぎたようだな。デスピサロは究極の進化を遂げて、やがて異形の者となり目を覚まし、もはや人間に対する憎しみしか残っておらぬはず。そしてデスピサロは二度と魔族の王に君臨することなく自ら朽ち果てるのだ。冥土のみやげにお前たちにも教えてやろう。人間どもを利用しロザリーをさらわせたのはこの私、エビルプリースト様なのだ!」
そういうことか。
カインは悟った。
そして心苦しく思った。
なぜなら、ピサロナイトを倒した一件によって、
カインはエビルプリーストの片棒を担がされていたのだから。
エビルプリーストは策士だった。
しかし、策に溺れていた。
デスピサロを貶めることばかり考えていて、
それが叶えば、自分が王になれると考えていた。
魔族全体が傾いている今、
魔族の王になることに、何の意味があろう。
カインはそう思った。
デスピサロの野望は、
魔族の王として、
魔族の発展の妨げとなるであろう勇者を倒し、
人間を滅ぼして、魔族の住みよい社会を作ることであった。
そして、そのためには自らが率先して行動し、
その姿勢が魔族にも、支持され、
王としての地位を確実なものとしていた。
ところが、エビルプリーストの野望は、
デスピサロを蹴落とすという、志の小さなものでしかなかった。
それも、切磋琢磨によってではなく、
陰謀によって、であった。
魔族同士が協力して、勢力を伸ばしてこそ、
デスピサロの野望は可能だったのであるが、
エビルプリーストの策は、初めから、
魔族を窮地に立たせる策でしかなかった。
エビルプリーストは、
地位も権力も実力もデスピサロに叶わなかった。
そこで、ロザリーを狙ったが、
ロザリーの守護者であるピサロナイトと戦うにも分が悪かった。
そこで、カインたちがピサロナイトを倒すのを見計らって、
策に乗り出した、というわけだった。
カインは心苦しくも思っていたし、
この点では、デスピサロを同情せずにはいられなかった。
信頼していた部下に裏切られ、
最愛の人を奪われてしまうとは。
そして、エビルプリーストには哀れみを持った。
魔族内でのナンバー1になるために、
こんな策しか思いつかなかったとは。
そしてまた、人間のおろかさをも痛感する。
確かにエビルプリーストに誘導されていたとはいえ、
私利私欲でロザリーを死に至らしめるとは。
カインは義父の遺言の通り、
常に強く正しくを目指してきたが、
何が正しいのかが、ときどきわからなくなる。
デスピサロが正義か?
それは違う。
一時期、魔族としての正義を貫いていたこともあったが、
今は、怒りに任せて自分を失っている様子。
エビルプリーストは正義か?
それは全く違う。
人間にとっても魔族にとっても、
悪、と言える存在のようにカインには思える。
それでは、人間が正義か?
これもまた、そうとも言えない。
ロザリーを死に至らしめる人間、
ブロンズの十字架を盗み、その罪を他人に着せようとする人間、
聞いた話でしかないが、
黄金の腕輪の封印を解かせたのも、
金に目のくらんだ人間であるようだった。
ではでは、マスタードラゴンが正義か?
これも、カインの目から見たら、
非常に怪しいものであった。
カインは天空人と人間の混血であり、
今挙げた、どの立場とも異なる立場。
そして、カインは、
魔族にも、人間にも、マスタードラゴンにも肩入れせずに、
今まで見聞きしてきた物事の判断基準で以てして、
自分なりの正義の基準で行動しようと考えていた。
結論は、簡単だった。
このエビルプリーストを倒し、
結界を解き、
デスピサロを倒す。
いや、正気に戻させる方法があるなら試してみたい。
その上で、まだ人間を滅ぼすつもりでいるなら、
それは、やはり戦うしかないことは言うまでもない。
「馬鹿な!あと一歩で私が魔族の王になれたというのに。許さん。お前たちだけは絶対に。ぐふ。」
断末魔を上げるエビルプリーストを尻目に、
なにが「馬鹿な!」だ、
と、カインは思った。
カインが片棒を担がなければ、
静寂の玉を恐れるがあまり、
ピサロナイトにさえ手が出せなかったではないか。
仮に魔族の王になっていたとしても、
自分たちが倒すことには違いなかったわけで、
エビルプリーストの断末魔には、
呆れて物が言えないカインであった。
さて、ついに4体の魔物を倒し、
デスピサロの城への結界が破られた。
カインは、今からデスピサロと相対するであろうところまで来て、
これまでの旅を振り返った。
そして、この世界は、
哀れな者たちで溢れていたことを思い出す。
黄金の腕輪の封印を解いたのは人間。
それを金目当てで売買したのも人間。
魔族に売ったのも人間。
エスタークの時代から、消え去った文明だった、
進化の秘法を再び編み出したのも人間。
それを盗みだし、魔族に伝えたのも人間。
アッテムト鉱山からエスタークの城を掘り起こしたのも人間。
大国エンドールと戦争を企てたのも人間。
ロザリーを死に至らしめたのも人間。
人間はなんと愚かしい存在であることか。
カインは、別の存在にも目を向けた。
魔族の王に反旗を翻したのも魔族。
王の最愛の者を奪う陰謀を企てたのも魔族。
魔族も、なんとも愚かしい存在であることに変わりはなかった。
さらに、カインは天空人にも考えを巡らせる。
遊び心で、禁止されている人間との恋をしたのが天空人。
罰として、天空人を連れ戻したのがマスタードラゴン。
怒りで、相手の木こりを殺害したのもマスタードラゴン。
勇者を授かりながら、その育成を怠ったが故に、
自城をもデスピサロに揺るがされたのもマスタードラゴン。
地獄の帝王以来、
魔族の行いを見て見ぬフリをしてきたのもマスタードラゴン。
なんと、考えれば考えるほど、
どの世界でも、自分の手で不幸を引き寄せているではないか。
これだけの不幸を目の当たりにしながら、
カインはまた、いつものひとり瞑想をしていた。
正義とは何か。
カインはよくよく考え、結論を出した。
正義とは、どこにでもあるようで、どこにもない。
皆、自分が思う正義を遂行しているが、
他者から見たら、それが正義でない場合もある。
カインは、常に正義を目指してきたが、
それが他者の価値観では、必ずしも正義でないことを理解した。
それを理解したら、カインには、
デスピサロの行いを「悪行」だとは言い切れなくなった。
正義が、どこにもないのと同様、
悪行も、どこにもない、という結論が導き出されたので。
デスピサロが望むのは、「天下統一の計」だった。
マスタードラゴンが望むのは、天空人と人間、
「天下二分の計」だった。
そして、今カインが考えているのは、
人間と天空人と魔族が住み分けることのできる、
「天下三分の計」である。
デスピサロが話し合いに応じるならば、それも受け入れよう、
カインはそう考えていた。
そして、もし、逆上して理性を失っているとしたら、
それは戦うしかない。
どちらに転ぶかわからないが、
決着のときは近い。
そう思いながら、
デスピサロの城へと踏み込むカインであった。
カイン:レベル33、プレイ時間25時間11分
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