僕が読んだ上田岳弘の3作目は、芥川賞受賞の『ニムロッド』
“仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。
深く大きなトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。
小説家への夢に挫折し鬱傾向にある同僚・ニムロッド。
やがて僕たちは個であることをやめ、全脳になって世界に溶ける。 「すべては取り換え可能であった」 という答えを残して。” (カバー裏面から)
突飛な話ではない。
『太陽』や『惑星』と比べると至極おとなしい。
まあ、それは本文での話で、
ニムロッドの書く小説の中では相変わらずで、
「駄目な飛行機コレクション」「雲を突き破ってそびえる巨大な塔」「寿命の廃止」「最後の人間「航空特攻兵器 桜花」「最後の商人」「東方洋上に去る」「あのファンド」「右眼から涙が止まらなくなった」「僕達は縛られている。 僕は縛られている」・・・と、意味不明な言葉が綴られている。
田久保紀子からは、“プロジェクト完了。 疲れたので東方洋上に去ります”と、最後のメッセージ。
ニムロッドは小説の中で、駄目な飛行機コレクション No.9 「特攻兵器 桜花」に乗り、太陽を目指して飛び立つ。 “太陽は正面にある。 僕以外には、誰もいない。 人間の王である僕以外は誰も。
帰りの燃料を積むことができないこの駄目な飛行機ならば、あの太陽まで辿り着くことができるのだろうか?”
ビットコインを単に「採掘」だけにしていた「僕」は、むしろ自分自身で仮想通貨を発行しようとしようと計画し、その最小単位にnimrodの名を与えようと思いつく。
これらの登場人物の行動は、僕にはよく分からないけれど、何らかのメタファーなのだろう、と思う。
でもしかし、そんなことよりもむしろ僕には、 ちまちました日常や心理に依拠した巷の小説世界から解き放された、上田岳弘の自由な世界が気持ちいい。
僕達は縛られている。 僕は縛られている。 だから僕は、ただ一人塔の上に残った今、この最後の時、駄目な飛行機に乗って、太陽を目指すことにしたんだ・・・