長期優良住宅 | In My Life■無印良品の家

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決して最新の話題ではありません

今回は長期優良住宅について書きたいと思います。



写真ナシで読みにくいかもしれませんが…。

これから建てる人にも、最近建てた人にも、多少は関連しているはず。


ちょっと小難しい部分もあるので、そういうところは軽~く流し読みでOK

長いけどね(笑)




■制度の背景


長期優良住宅とは、要は“長持ちする良い住宅”のことです。


もともとは国の施策における“もっと家を長持ちさせよう”という方針から、

「長寿命住宅」とか「200年住宅」とか、いろいろな呼ばれ方をしていました。


それを受けて、「住生活基本法」や「住宅の品質確保の促進等に関する

法律」(品確法)をベースとして明確な認定基準を作り、「長期優良住宅の

普及の促進に関する法律」(長期優良住宅法)が2009年6月に施行されました。



長持ちする良い住宅”として、国の基準に則って認定された住宅が

長期優良住宅です。


認定を取るか取らないか建築主が判断できます。

認定されなくても実際に長持ちする良い住宅はいくらでも存在します。




■認定の基準


詳しく書きだしたらキリがないので、ざっくりと。

というかぶっちゃけた話、理解するのが難しいんです。


耐震性…耐震等級2以上
維持管理・更新の容易性…維持管理対策等級3相当
劣化対策…劣化対策等級3相当
省エネルギー性…省エネルギー対策等級4相当


住戸面積…75㎡以上(少なくとも1の階の床面積が40㎡以上)
居住環境…地域における居住環境の維持・向上に配慮
維持保全計画


可変性バリアフリー性については戸建住宅への適用がないので省略。




■長期優良住宅のメリット・デメリット


これも、詳しいところは省略します。


【目に見える目メリット】アップ


住宅ローン減税の控除額が増える。
登録免許税が安くなる。
不動産取得税の控除額が増える。
固定資産税の減税期間が伸びる。
フラット35S(20年金利優遇タイプ)が使える。


いろいろと試算しているサイトは存在しますが、

個々のローンの金額によって計算結果は異なってきます。


上の挙げた5つの項目のうち、上の4つは高額ローンでないとメリットを

享受できない可能性が高く、庶民価格のローン(約2000~3000万)の場合、

数万~十数万の効果しか見込めないと思います。



最も影響が大きいのが、フラット35S(20年金利優遇タイプ)。

ローンの金額が少ない方や変動金利を選択した方には関係の

ない話ですが、フラットでローンを組んだ方にとっては200~400万程度の

メリットが出てくる可能性もあります。




【目に見える目デメリット】ダウン


工事費用が30万~100万程度増額になる。ただしこれはHM次第です。
最近は標準対応が一般的なので、特に増額にはならないケースも多いでしょう。


申請費用が十数万~30万程度かかる。これも金額はHM次第です。




【目に見えないメリット】アップ


・将来的に家を手放さなくてはならない時に、「長期優良住宅」という

箔が付くことで高く売れる可能性があります。




【目に見えないデメリット】ダウン


・長期優良住宅に認定されたからには、維持管理を行う義務があり、

適切に維持管理を行わない場合は認定が取り消されることもあります。
(国土交通省→http://www.mlit.go.jp/common/000044653.pdf)
 
ただ、取り立てて罰則規定があるわけではありませんので、それほど

シビアに考えることではないかもしれません。






■「無印良品の家」と「長期優良住宅」


【標準仕様で長期優良住宅かどうか】


このブログを読んでいただく方の中には、「無印良品の家」で建てる

(建てた)方が多くいらっしゃると思います。


おそらくその方は、一度は無印良品の家のHPをご覧になっているでしょう。


HPの中には、“○○年、無印良品の家を検討される方へお伝えしたい特別なこと
というページがあり、長期優良住宅の優遇措置についての記述があります。
(こちら→http://www.muji.net/ie/chouki/)


無印良品の家は、標準仕様で長期優良住宅に対応しています。
他の大手HMや、設計事務所で建てる場合も最近は対応しているでしょう。




【オプション仕様で長期優良住宅に対応する場合】


地元の工務店(HMの下請けではないところ)で建ててもらう場合は、手続きに

慣れていない可能性はありますが、制度が始まってから2年経っているので、

「うちじゃ申請はできねぇ」なんて工務店はほとんどないでしょう。
代願申請サービスもありますし。


ただ、こういう工務店の場合は、長期優良住宅の仕様にするためには

100~200万かかりますよ、というところもあるようです。


実際は30~50万で済むはずなので、100万かかるという工務店は

ふっかけているか、やりたくないか、元々の仕様が著しく低い可能性があります。




【無印良品の家は、みんな長期優良住宅?】


戸建住宅の延べ面積(坪数)の全国平均は、約30坪です。


地方では延べ30坪の家は小さい方ですが、それでも無印良品で建てた場合、

2009年6月以降であればほとんど全てが長期優良住宅でしょう。


標準仕様でそうなるんですから、普通はその恩恵に預かります。



しかし都市部の状況は違います。


土地の値段は高く、限られた土地に最大限の家を建てた結果家は密集し、

必ずしも居住に適した周辺環境とは言えません。

それでも人が住むむのは、それなりの利便性があるからです。




既に述べましたが、長期優良住宅の認定基準の1つに面積の基準があります。


75㎡以上(少なくとも1の階の床面積が40㎡以上)


75㎡は約22.7坪、40㎡は12.1坪です。


吹抜を設けることが多い無印良品の家では、1階の床面積の方が

大きい場合が多く、そして階段は通常0.75~1坪程度。


ということは一般的には、

1階を約13坪以上、2階を約10坪以上(合計で23坪以上)確保しないと、

長期優良住宅の認定が取れない」ということになります。

厳密な表現ではないですが、わかりやすく言うとこうです。


実は我が家は、1階13.26坪、2階12.50坪、結構ぎりぎりです。

というか、足りるように計画した、という順番です。)



以上のような面積上の理由で、都市部で3階建で建てた

無印良品の家(に限りませんが)は、

ほとんどが長期優良住宅の認定を取れていないはずです。


もちろん、都市部の無印良品の家で1つの階で13坪以上

確保している3階建もあるかもしれませんが、例外だと思います。




もし仮に無印良品の家を建てるとして、長期優良住宅の認定を

取らない場合、建物のグレードが下がるかというと、そんなことはありません。


無印良品の家のコンセプトはあくまで「永く使える、変えられる」です。

それに適した構造計画として、SE構法を採用しています。


同じように、『長期優良住宅の仕様にすること』自体が、

無印良品の家のコンセプトに合っています。


つまり、長期優良住宅の制度は、無印良品の家に適した制度

と言っても過言ではありません。


仮に無印良品の家で建てて、長期優良住宅の認定を受けない

としても、それは手続き上の話であって、

建物自体は長期優良住宅と同等の性能があります。




■他の制度との関連


1長期優良住宅
2フラット35S(20年金利優遇タイプ)
 ※1.0%優遇については、2011年9月30日までの申込分で終了。
3住宅エコポイント  ※2011年7月31日着工分までで終了。



上記は似たような「お得な制度」に見えますが、趣旨が少しずつ違います。


①と②は近いのですが、②の基準は①より緩いです。


②は「耐震性」「耐久性・可変性」「省エネルギー性」「バリアフリー性」、

この4つのいずれかを満たせば良く、長期優良住宅にすれば自動的に

「耐久性・可変性」を満たすことになります。


(細かい基準については省略します。)



③は名前の通り、「エコ」が重要なのであって、

省エネルギー性以外は影響しません。


これについても、長期優良住宅にすれば自動的に住宅エコポイントに対応

した仕様になります。



つまり、長期優良住宅の認定さえ取れば、書類上の手続きを適切に行えば

他のお得な制度を自動的に利用できるるわけです。


そして、長期優良住宅に標準仕様で対応しているということは、

上記のお得な制度を利用しやすい環境にあると言えます。





■長期優良住宅に関する問題点


【制度上の問題】


長期優良住宅の認定は、計画段階で行われます。


しかしその通りに施工されたかどうかのチェック機能は、

全くと言っていいほどありません。


施工者側の知識・技量、HM側の監理体制によっては、

認定は取ったものの、その通りにできていないかもしれないのです。




【建築主の義務】


上の方の文中の“目に見えないデメリット”で少し書きましたが、

長期優良住宅の認定を取ったからには、それを維持管理する義務があります。


しかしどれだけの建築業者が、その事実を建築主に伝えているでしょうか。



長期優良住宅の申請書の中身を自ら隅々まで読み込んで理解している人が

それほどいるとは思えません。


ちゃんと説明する業者なんてほとんど皆無でしょう。



せっかくの良い制度なのに、維持管理の重要性を建築主に伝えなければ、

“長持ちする良い住宅”をたくさん作ろうというこの制度が生かされないと思います。


維持管理や点検というのは、HMが来て全部やってくれるわけではありません。
ある程度はアフターサービスでやってくれるでしょうが、せいぜい10年まででしょう。



どんな外壁材でもメンテナンスをしない限り、

30年後には間違いなく相当劣化しています。

どこかしらから雨漏りする可能性もあります。


とくに危ないのは、シーリング(ここではコーキングと同義)です。

紫外線により劣化し、特に日当たりの強い部分では5~7年、

持っても10年程度でひび割れてきたり、破断したり剥離したりします。


多少雨水がしみ込んだところで、簡単に内部に水が漏るような納まりにはなっていませ

んが、そういう状態が継続すると最終的に漏水につながります。





■まとめ

僕の意見としては、


『標準仕様で長期優良住宅に対応しているHM等で建てるなら、
できれば長期優良住宅の認定を取ることが望ましい』


と思っています。



既に書いたように、直接的に初期投資分が返ってくるかどうかは

分からないけれども、高い資産価値が維持されるのであればやはり

メリットの方が大きいと思うからです。



そして認定を取ることで、

その家の性能の高さを最も端的に示すことができます。



しかし、「お得な制度が減ってきたダウン」のもまた事実です。
今はちょうどその過渡期です。



僕が思うのは、日本の住宅をもっと良くしていくために必要なのは

制度だけではなく、国民の住宅に関する意識の底上げが必要だと思います。


DIYレンチという言葉が定着したのは嬉しいですね。

商業的・経済的な背景があるとしても、少なくともそういう意識が

高くなってきている証拠ですから。


ちゃんとした知識の下に自分で家を直したり塗装をしたり、

そういったことがもっと一般的になって、義務や制度だからではなく、

家を建ててから自分たちで家を作っていくのが当たり前、そんな社会に

なったらいいなぁと、建築業界の端くれとしては思う今日この頃です。