それでも吹きすさぶ風は冷たく、肩をすくめて外に出た。
繋がれた左手をギュッと握って、行き場を失った右手は上着のポケットに収まった。
この通りは日陰が多くて寒いんだ。
他愛も無い会話をしながら歩く。
時に自ら喋り、時に相槌を打ちながら。
その通りには、いつも目をひく巨大なアロエ?がある。
やはり今日も例に漏れず、そのアロエの話に華が咲く。
少しお金持ち風な家の、2Fバルコニー部分に鎮座しているアロエ。
街に似つかわしくない巨大な風貌。
1Fにまで到達してしまうぐらい、デローンと垂れ下がった大きな葉。
その存在感に驚き、また、どこか滑稽に思えるその様に、失笑に近い笑みがこぼれる。
どうしてあそこに植えたのだろう?とか、
あそこまで大きくなるって思わなかったんじゃない?など、
そんな街の一角にある植物に、いらぬ想像を膨らませつつ僕らは笑う。
しばらく歩いたら目的地に辿り着いた。
大人達が静かに並んでいる。
普段は小学校として機能しているこの場所も、今日は特別な用事で様変わりしてしまっていた。
僕らも無言で列に並ぶ。
ずっと日陰を歩いてきて寒かったのが一転、ここはぽかぽかと暖かい。
そんなに広くはないけれども、南向きの校庭は日の光を充分に与えてくれる。
寒さから解放され、暖かさに包まれた僕は、さきほどのアロエのことを思い出しつつ船を漕いでいた。
うつらうつらしていたら、次第に投票所が近づいてくる。
僕はここの住人ではないので、繋いでいた手を一旦放した。
放したその手は、この季節とは思えないほど汗ばんでいた。
手持ち無沙汰なので、携帯電話なんかをいじりながら待っていた。
校庭には、一緒に来たご家族を待っているのか、まだ小さい子供や犬を連れて遊ぶ人がいる。
「影ふんじゃうぞぉ~!」という元気な子供の声が聞こえる。どうやら父親と影踏みをしているようだった。
その父子に遠い日の父と僕を重ねる。
何故だか知らないけど、最近無駄に涙もろい。父子を見ていただけで泣きそうになっていた。
ふと足下を見たら、小さい犬がいる。
僕は犬が大好きだ。微笑みながら静かに手を差し出す。
フンフンと匂いを嗅いでいたが、気が済んだのか僕から遠ざかっていった。
飼い主のお年寄りが、「ありがとうございます」と、しわくちゃの笑顔を僕に向けてくれた。
僕も笑顔で軽く会釈をすると、お年寄りの方は犬を追って歩いていった。
すると用事を済ませて帰ってきたので、僕らはまた手を繋いで歩き始めた。
今日は鉄板入りの編み上げブーツを履いていた。
完全に失敗だった。
さらに、靴下も短めのをチョイスしてしまった。
これもまた完全に失敗だった。
ブーツは少しオーバーサイズで、久しぶりに履いたのもあって、中で足が遊んでいた。
短い靴下も、ブーツの中でスルスルと脱げていってしまう。
校庭を通り抜け、歩道に出る頃には完全に脱げていて、アホの子みたいになっていた。
少し歩いちゃ靴下を引っ張り上げる・・・その行為の繰り返しだ。
そのうち僕はそれを諦め、アホの子でいることに決めた。
駅まで向かう間も、他愛の無い話にいくつもの華を咲かせた。
水を使わないで作ったカレー、僕のこと、あなたのこと。
やっと持って帰るバウムクーヘン、タバコの空き箱、イルミネーション。
七分丈のジャージ、30日のライブ、クリスマスにお正月のこと。
気がついたら駅に着いてしまっていた。
いつも見送られてばかりだったけど、今回は僕が見送った。
改札が僕の行く手を阻み、人混みに紛れながら小さくなっていった後姿。
ご主人に置いてけぼりにされる犬の気持ちが、今なら解る。
僕は地上に上がり、僕が乗るべき電車を待った。
地元に着いた。
イマイチ垢抜けてないけど、やっぱりなんか落ち着く。
家族に電話をかけて、迎えにきてもらおうとしたけど繋がらず。
歩いて帰ると1時間ほどかかる。一瞬歩こうかとも思ったが、アホの子なのですぐイヤになった。
バス乗り場へ向かう。タイミング良くバスが出るところだった。
小走りで駆け込むと、すぐにバスは出た。
家に着いてすぐ、僕も紙切れを持って再び家を出た。
さっきは小学校だったけど、僕のところは公共施設なんだ。
先ほどのような行列はなく、人気の無いその場所で紙切れを見せる。
名前を確認され、新たな紙切れを渡された。
僕はそれに「ナシ」とだけ書いて、貯金箱のオバケみたいなのに入れてきた。
その帰り道、花を見つけた。
こんなに寒い季節にも、咲いてる花はあるんだね。
花、葉、茎、そして根。
ひと言に「花」とは言っても、色んなもので成り立ってるんだなあ。
今日も色んな話の華を咲かせたけど・・・
きっとそれらも、色んな事柄が合わさって成り立っているのかもしれない。
今日の話の「華」の葉っぱ、茎、根っこは何なんだろう?
そんなことを考えていたら、一日が終わってた。









