それは封書の束だった。
暗がりでよく見えなかったが、僅かに射し込む外の灯りで、封書だというのは分かった。
こんな時間に一体誰が・・・?
一瞬恐怖も過ぎったが、誰がこんなものを投げ込んだのか、確認せずにはいられなかった。
履くものもそっちのけに、私はドアを開け一歩外に踏み出した。
静寂---
見回しても誰もいない。なんの気配もない。
自分以外の三部屋は空き室のはず。当然といえば当然である。
ただしんとして、深夜独特の澄んだ空気が身体に張り付く。
一瞬呆けてしまったが、ハッと我に返り、封書の束の存在を思い出す。
が、その時だった。
カタン、カタン・・・という例の音が聴こえてきた。
それも、いつもよりも速いテンポでこちらに近づいてくる様子が鮮明に聴こえる。
カタン、カタン カタン、カタン、 カタン、カタン! カタン!カタン! カタン!!カタン!! カタンカタン!!!
その正体を知りたくて自ら扉の外に出たくせに、私は慌てて部屋に引き返した。
急いで鍵をかけ、玄関に散らばった封書もそのままに、頭から布団をかぶって夜をやり過ごした。
電話が鳴っている---
永遠に感じられた夜は明けていたようだった。
いつしか眠っていた私は、その音に起こされた。
充分な睡眠をとれていなかったためか、半分寝惚けながら電話を取った。
だが、電話の向こうから聴こえてきた声は、思いがけない人物のものだった。
鈴保千絵だ・・・!
予想していなかった出来事にテンパりながらも、歓喜と興奮により一気に目が覚めた。
会話の内容は他愛も無いことで、昨日の礼と、話した内容や出来事の反芻だった。
例え内容の無い会話であっても、憧れの人の声が聞けて、それが自分だけに向けられたものだと思うと
起きていながら夢見心地であった。
さらに驚いたのは、今日も遊びに行っていい?という千絵からの問いだった。
何故?という疑問はあったが、断る理由は無い。むしろ歓迎すべき提案に、二つ返事でOKした。
予期せぬ嬉しい目覚めに気分も良かったのだが、玄関にふと目をやると、昨夜のことが思い返された。
今は闇夜とは違い、太陽の光に溢れている。外には人々が生活している気配もする。
多少の気味悪さはあるが、とりあえず玄関に散らばったままの封書をかき集め居間に戻る。
一旦落ち着こうと煙草に火をつけて、まじまじと「それ」を観察してみた。
数えたら十通。皆同じ封筒のようだ。
宛名も差出人も書かれていない。
すぐにでも中身を見たいという気持ちと、見たくないという気持ちが葛藤していたが、
煙草が吸い終わる頃、ついに封を切ろうと決心した。
to be continued