「勇気とは、不安を消し去ることではない、
 不安に向かっていくことだ。」 (マーク・トゥウエイン)
旅学001号 1ページの最初に出てくる一節。
もう20年ぐらい前になるけれど、この一文を読んだ時は100万ボルトの雷に打たれたような衝撃だった。

あの日、タイトルが気になって何気なく持って開いた本を持ったまま、しばらく動けなかった。
レジで支払いを済ますと、事務所の席で一気に読んだ。
これが私が「旅学」との出会いだった。
「旅学」とは池田さんが作った造語。
池田さんの伝えたかった旅を自分なりに解釈すると、東京から竜飛岬まで、GoldWingでいくのは移動、Cubで行くのは旅、こんな感じ。
とにかく、色んな国をパックツアーではなく自分で見聞きしながら旅する人のお話が満載で、朝から晩までネット業界でワーカホリックとして過ごしているサラリーマンだった私に「人生はこんなに選択肢がいっぱいあるんだよ 世界を見てみなよ」と勇気をくれた気がした。

この「旅学」を作った池田さんが、2023年の10月に亡くなった。
自分なりに、かなり大きなショックだったけど、半年以上の時間がすぎたので、書いておくことにする。

池田さんと直接あって話したのは、2002-3年で知り合いのデザイナーがたまたま旅学の制作に関わっていたのがきっかけ。
当時の池田さんは、今はなくなってしまったネコ・パブリッシングでHOTBIKEを創刊した編集長だった。
青学、陸上部で短距離 ハーレーにどっぷり浸かる前は、ドカのMHL乗ってた。
知り合ってからは、雑誌もバイク業界もインターネット対応しなきゃ、ってことで何度もインターネットサービスのことでお話をしてた。
打ち合わせに来る時は、いつも自作のチョッパーでやってくる。
パンヘッドの自作チョッパーは、6Vでイグニッションスイッチがなくて、シート下のバッテリー線のギボシを抜き差しするのがスイッチ。
駐車するときはシートレールに乗っかってるだけのペラペラな下敷きみたいなシートを持ち上げ、ギボシ抜をいてその絶縁のために外したグローブをはさんで、シートを置いておしまい。
向き替えるとき、スプリンガーフォークが前に突き出してるので、ホイールベースがすげー長くて、めっちゃ押し引きしながら向き変えてたなぁ。
最後にあったのは、CLUBMAN復活の前後あたり、青学は箱根駅伝が強いからOBとして壮行会にいくんだぜ!と嬉しそうに話してた。
双子の女の子のお父さんでもある。

わたしもハーレー乗ってたけど、HOTBIKEより今でも「旅学」のほうがずっと心の中にトゲが刺さりまくってる。
もちろんバイクの話もしたんだけど、池田さんは旅をすること、特にバイクで旅をすることが好きだった。
バイクに対する考えで一貫して話してたのは、
「旅するバイクは、ほんとにバイクならなんでもいいんだよ。ホンダでもスズキでもパッソルでもなんでもいい。
バイクはあくまで乗り物であって、アートではない。走ってナンボだ。
大金かけてきらびやかに展示される様はさておき、道で人がまたがった姿がカッコいいかどうかが、これが一番重要なことだと思うんだ。」
こんな感じなので酔っ払ったときには、雑誌の特集も走る楽しみを特集するよりバイヤーズガイド系の特集のほうが売れるのが気に入らないみたいだった。

ただHOTBIKEの方でもお世話になった。
HOTBIKEで思い出すのは、毎年夏に群馬県と長野県の県境の渋峠・横手山山頂で開催されるLove and Peace Ride Meeting(ラブピー)のこと。
当然ハーレーの雑誌がやるイベントなので、みなさんハーレーで下から登ってくるんだけど、2300メートルの山頂でキャンプしながらすごすイベント期間中は、大雨が降ったり強風でテントが飛んだり死ぬほど寒かったりと、ものすごく過酷な環境だったけど、急に晴れてすごい星空が広がったり素晴らしい夜明けが見れたりして、時折訪れる大当たりの瞬間をみんながワクワクしながら待ってるようだった。
それに怖そうに見えるチョッパー乗りの人は皆さん親切で礼儀正しく素晴らしいイベントだったなぁ。
とにかく、参加してる人がものすごく魅力的なイベントだった記憶がある。あと、参加するとワッペンがもらえたけど水色とピンクとかもらったのを覚えてる。
当時はWebサイトは一般的なものになりつつあったけど動画はまだまだで、USではYouTubeがサービス開始したけどGoogleに買収される前、日本ではmixiやBLOGが出始めた感じの頃の話です。

もし、こんな文章を読んで池田さんや旅学やLove and Peace Ride Meetingに関心のある人がいたらぜひ検索してもらいたい。
いまから25年も前の話だけど、そこには今も変わらない熱い旅好きの人やバイク乗りの思いがハッキリと記されていると思うから。

「人はみんな死ぬんだよ
生きてるうちにやることやらなきゃ
人生は旅だと言うなら、旅をすることで我々は人生を学ぶのだ」 池田伸