少しずつ仕事にも慣れ、基本的な接客はできるようになったが相変わらず女の子の名前が覚えられずにいた。
ある日、藤広さんが
『この前言ってたいいもの教えてあげようか?』
そういって教えてくれたのは、店舗のホームページだった。
『ここにはみんなの名前と写メがあるから、見とくといいよ。』
そういって教えてもらったホームページには、確かに見覚えのある顔ぶればかりだった。
『それにしても多いな。』
俺は思わずそうこぼしてしまった。
(注:通常キャバクラは店舗の大きさによって在籍する女の子の数が違う。小さな店舗では在籍は10~20程度。普通の店舗では20~30程度。大きな店舗では30~50程度。大体平日は出勤するのは在籍の7割程度。金曜、土曜は8割程度出勤する。)
『ん?』
色々見ていて気づいたのだが数人の女の子のブログにはかなり際どい露出の写メがあった。
その事を藤広さんに聞いてみると、
『あぁ、今はイベント期間中だからね。何人かはエロい写メ載せてるんだよ。』(注:キャバクラでは店舗によって様々なイベントが存在する。この場合にはブログに際どい露出の写メを載せ、それを見て指名された数を競うイベントだった。他にも花魁イベント、水着イベント、ボディコンイベントなど、様々なイベントが存在する。水着などはかなり好評だった。)
そして、どんどん慣れていき、ついにインカム(注:キャバクラのボーイは大体インカムと呼ばれる物をつけているが、実は営業に直接関わらない新人には与えられない。しかも、基本的に買う場合は自腹である)をつけるまでになったが、ここで新たな障害が待ち受けていた。それが、延長交渉だった。
延長交渉とは、キャバクラは基本的に最初は一時間、以降30分単位でセットがある。当然店側にとっては、長くいてもらった方がよい。しかし、この不景気な世の中一時間で帰ろうとするお客様も少なくはないのだ。そういった方に如何に延長してもらうかが、ボーイの腕の見せ所である。
具体的には、
1 まずはお客様の斜め後ろから近づき、そして女の子がいる側と逆から話しかける。(男は基本的に女の前では見栄をはりたいため、目の前で、値切ったりケチな所を見せたくないためである。)
2 帰るかどうかの意思を確認する。(この時の第一印象が非常に大事だ。)
3 普通に延長を勧める。この際、いきなり割り引きの話などは絶対にしない。(どんなものでもそうだが、例えば、1000円の物を売る時にいきなり1000円で売ろうとするより、10000円から徐々に割り引きしていった方が売れやすい。買う側は安くなって得をした気になるし、売る側ももしかしたらいきなり10000円で売れるかもしれないため、得をする場合がある。)
4 3までいってダメな場合は、おつまみを一品サービスすることを伝える。(が、実はここでもなるべく原価の低いものを選ぶ。たとえば板わさと呼ばれるかまぼこにわさびを挟んだものを選んだ場合。お客様には、今日たまたま美味しいかまぼこを入荷したのですが、お客様に是非食べて頂きたいのでサービスします。よかったらどうですか?など、言い回しには気をつけること。)
5 それでダメなら、今度はいよいよ値段である。この際ももちろん少しずつ下げていく。店舗により、限界はあるので事前に確認をとっておくこと。
6 普通は5まででやめるが、私はさらにここでお客様一人につきワンドリンクサービスを勧める。大概断られるので、最終手段として女の子にワンドリンクサービスをつけると言う。これが案外効くのだ。なぜなら、お客様は本当は女の子を酔わせて、酔ってる姿をみたいのだ。しかし、金がない。そこに女の子にワンドリンクサービスをつけると言うと、案外揺らぐのだ。
最初はこの交渉が本当に嫌だった。何度行ってもとれず、悔しかったのだ。そして、何度も失敗してコツを掴んだ。気づけば店舗の延長交渉はほとんど俺が行くことになっていた。こうしてかなり仕事にも慣れ、店の女の子にも名前を覚えられた頃には入店してから1ヶ月が経っていた。そんなある日、転機が訪れる。
代表から、
『そろそろマネージャーにならへんか?』
衝撃的な展開だった。

続きは次回更新で。


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